大学2年の春、高校の演劇部の葉山先生から泉に電話がかかってきた。部活動を手伝って欲しいと言う先生からの誘い。高校時代片思いをしていた彼からの電話に泉は思わずときめく。だが、先生には泉にも言っていなかった秘密があった。お互いに魅かれあいながらも同時に辛い想いを抱えなくてはならない2人の恋を、結婚を控えた泉の回想という視点から描く。
(島本理生)1983年東京生まれ。立教大学文学部在学中。『シルエット』 で第44回群像新人文学賞優秀作、『リトル・バイ・リトル』 で第25回野間文芸新人賞を受賞。
この本は進まなかった。読み終わった直後思ったのは、イマイチ感情移入ができなかったのではないかということ。しかしそれが主人公 泉に共感できないからか?と最初思っていたが、もしかすると共感し過ぎて辛くて進まなかったのかもしれません。
物語は始終、泉の葉山先生への想いで一杯に溢れています。行間からこれでもかこれでもかと葉山先生への想いが溢れてくる。泉に他の生活、大学での授業や友達関係やサークル活動などは一切ないのか、という位、泉は葉山先生にハマりっぱなし。
葉山先生は重大な秘密を抱えていて、それのために2人は結ばれることはないとお互い分かっているはずなのに、それでも求め合ってしまう。そこが、読んでいて辛い。そして端から見ると、そんな恋なら辞めてしまえ、と言いたくなる。泉の一時的に恋人になった小野君の、ストーカー的な苛立ちにも共感できる部分がある。
評価:




(5つ満点)
しかし。
泉は葉山先生の所へ戻る。戻ってきた泉を見て先生はなぜ戻ってきた、と問うがその時の泉の答えが
『あなたに、呼ばれた気がしたから。』
泉の思い込みだけではなく、葉山先生の強引な行動も全くないというのに、2人は惹きあってしまう。それが恋なのでしょうか。
互いを愛する想いをついに2人は認め合うが、それが同時に別れを意味することも分かっていた。たった二十歳でそれを自覚しなくてはならなかった泉、それが彼女を成熟させたとは思うが、もっと学生生活を謳歌できたはずなのに、それだけが私には痛々しくてならない。
でも泉自身は決してそうは思っていないんだろうなぁ。
感情移入できない。なんて最初に書いておきながら、こんなにも感情移入していることに、結構ビックリ(笑)。
島本理生、浅いようで深い。これからの作品にも期待大ですね。
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