契約社員ナガセはある日突然自分の年収と同じ額の世界一周旅行の費用を貯めることを決意する。総額163万円。執拗なまでに節約を試みるナガセはついに目標金額を貯めるのだが。お金がなくても思いっきり無理をしなくても、日々人と触れ合い生きていくことで夢は毎日育ててゆける。第140回芥川賞受賞。
(津村記久子)1978年大阪市生まれ。大谷大学文学部卒業。『マンイーター』で太宰治賞、『ミュージック・ブレス・ユー!!』で野間文芸新人賞、本作で芥川賞を受賞。
(収録作品)ポトスライムの舟/十二月の窓辺
切れ目のない文章が最初やや読みづらく感じるが、すぐに引き込まれてしまった。ナガセと学生時代の3人の仲間を描いた作品、それぞれの立場、置かれた環境が違っても、ひたすらにそれを受け止めそれぞれの立場で精一杯行きようとする彼女達。こういう設定の小説は数多くありながら本作が新鮮なのは、ナガセが目標に定めた
【世界一周の費用163万】という、
現実的でない163万円という現実、に尽きる。ここが何と言っても巧い。
同時収録の
『十二月の窓辺』 でも同様に、辛くてどうしようもない状況に置かれている主人公達を描きながらもそこで生きる彼女らの想いを、率直に、ただ丁寧に描いている。久々に純文学を読んだと思った、こういうのが純文学と評される、芥川賞受賞作であるべきだと思う。
評価:




(5つ満点)
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