夏休みもあと数日。中学2年生の静男は生後5ヶ月の赤ん坊を負ぶい保育所を探していた。年上の花音と静男との間に生まれた息子、優作。花音が幼い父子を残し出奔した後も、途方に暮れながらも幼い父親の静男はひたすらに優作を守ろうとするのだが。
(山本幸久)1966年東京都生まれ。中央大学卒業。 『アカコとヒトミ(『笑う招き猫』 に改題)で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。著書に 『愛は苦手』 『失恋延長戦』 など。
途中、静男のあまりのひたむきさに息苦しさを感じ読むのが辛くなったり…。ただひたすらに優作を愛し育てるその様子は
『責任』 という言葉だけでは説明できない、もっと本能的なものなのだと感じましたね。あまりに身勝手な花音の行動すらあまり責める気になれない、どころか気にならないほどなのは、静男自身が花音に対して怒りを感じていないからで、それを物語中見事に読者に伝えていると思います。
リアリティのない話をリアルに感じるそのわけは、登場する中学生の少年少女らを見事にリアルに描いているからでしょう。そう、あくまでも静男は14歳、中学2年の少年なのです。優作をおんぶして育児をする合間に夏休みの宿題を律儀にこなす…その姿勢がなんともいじましい。静男の幼なじみでちょっとヤンキーかと思っていた少年も実はとってもいい子である、という展開も嬉しいです。
ラストでも花音は戻ってこず、その帰還はもはや絶望的でありながら、静男はそれでもなお彼女を恋しく思う気持ちを捨てきれない(そりゃ当たり前だ)。優作と引き離されそうになった静男が言う
『ぼくはもう家族がバラバラになるのはイヤなんだ。』 その一言がすべてを語っています。
夢物語でありながら現実の厳しさも織り交ぜ、静男の周辺の大人になりきれない大人達を非常によく描いており、身につまされます(!)。静男が、第1王子より年下だという事実には読了して気付いたし!
評価:




(5つ満点)
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