大海人皇子と大友皇子が天智天皇崩御の後皇位継承権を巡って戦った壬申の乱を背景にした物語。大海人皇子の息子、草壁皇子は恐ろしい夢を見る。その意味も分からないまま、不穏な空気が立ちこめる吉野の宮で草壁皇子は言葉の不自由な女の子と出会う。彼女は何も言わなくても皇子に様々なことを教えてくれた。争いの中で皇子が出会った姫神、丹生都比売とは何者なのか、美しくも儚い物語。
(梨木香歩)1959年生まれ。児童文学者のボーエンに師事。 『西の魔女が死んだ』 で日本児童文学者協会新人賞、『裏庭』 で児童文学ファンタジー大賞を受賞。主な著書に『からくりからくさ』 『エンジェルエンジェルエンジェル』 『村田エフェンディ滞土録』 『春になったら苺を摘みに』 、絵本に 『ペンキや』 『マジョモリ』 『ワニ』 『蟹塚縁起』 など。
梨木氏得意の異世界モノ。壬申の乱をテーマに大海人皇子と妃(後の持統天皇)の間の子、草壁王子(後の天武天皇)を主人公に据えている。
皇位継承のため血でつながった同士が憎みあい戦う中、ひたすらに運命を受け入れた草壁。病弱ゆえか優れた感覚を持ち、丹生都比売の加護を受けていた、とあるのを梨木氏は少女に化身した比売と皇子が仲良く遊んでいたのだと表現する。
皇子を愛していながらも皇位のため子どもを倒さざるを得なかった持統天皇の哀しみと、儚くも父母や兄弟を思いやって生き抜いた皇子。不思議な空気が流れている、歴史絵巻である。
評価:



(5つ満点)
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