林真理子の短編集。文芸春秋 『オール読物』 連載を単行本化。
収録作品: ペット・ショップ・ストーリー/初夜/メッセージ/眠れる美女/お帰り/儀式/いもうと/春の海へ/帰郷/雪の音/秘密
ちょっと前に
『短編集は面白くない』 などと書きましたが、撤回します。やはりいい作家が書く作品は長編でも短編でも面白いです。私は林真理子の書く
『正しい純文学・正しい日本語』 の作品が非常に好みです。今回もどれも良かったですね。
林真理子は日本語の持つ美しさ、難しさを実に上手く表現できる数少ない作家の1人かと思っています(すごいおおげさな物言いだな)。自身でも
『自分は純文学を書く作家であるという意識を忘れたことはない』 というような発言を以前していたような気がします。純文学とエンターテイメント文学の差がなくなってきている現在、貴重な意見に思えます。
今回も
『春の海へ』 という作品の冒頭にあった一文。
車は橋にさしかかる。巨大な吊り橋は三月になったばかりの水色の空を何分割かしていた。
ここで私は数秒間止まってしまいました。
吊橋の橋脚が、空を何分割に分けていた。
空を分けていたのは、吊橋。
それを見上げているのは、私。
こういう文章が書けるようになりたいものです。
評価:




(5つ満点)
気に入った作品は下記です。
『初夜』
結婚適齢期をとっくに過ぎた娘と2人暮らしの父親。明日子宮を取るという大手術をする娘への憐憫と愛情を描いた作品。
『眠れる美女』
妻が10歳以上年上の友人宅で、2人の不可思議な夫婦関係を見るように頼まれた男の回想録。ちょっとホラー。
『儀式』
今回はこれが一番良かった。バツイチの夫と再婚した年若い継母と、前妻の継娘との奇妙な付き合いが何年か続き、最後に夫の葬式でそれがお互いにとって 『儀式』 に過ぎなかったと気付く物語。
『帰郷』
これも結構良かった。幼なじみとの複雑な感情を引きずったまま故郷へ戻った来た中年の女たちのそれぞれの心情を描いた物語。
こうした短編集は人の人生をちょっと覗き見したみたいで、不思議な感じがします。
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