チャイルドモデルから国民的アイドルとなった美しい少女 夕子。幼い頃からモデル、CMの中で生きてきた彼女はある出来事をきっかけに大ブレイクする。その一方でままならない学校生活、マネージャーとして常に一心同体の母、別居する父とその愛人、初めての恋愛と身を襲うスキャンダルと夕子の華やかながらも慌しく過ぎる18年の日々を描く長篇小説。
(綿矢りさ)1984年京都府生まれ。 『インストール』 で文藝賞を受賞しデビュー。『蹴りたい背中』 で第130回芥川賞を史上最年少19歳で受賞。
ずいぶんしっかり取材をしたんだろうな、と思わせる骨太ストーリーでした。構成も上手いですね、チャイルドモデル夕子の誕生から、つまり両親の出会いから描いたというところ。それが一貫して夕子の視点できちんと描かれています。
実際多少の違いはあれ、子どもタレントってみんなこうした苦労を背負っているんだろうな、そしてその家族、特に母親もそうなんでしょう。綿矢氏の凝った文体が
『蹴りたい背中』 の時と比べて作りすぎと感じさせないながらも上手いな、と思う箇所が多かったです。
単に同情を引く内容としては描かず、夕子自身が自分のこれまでの人生を初めから一歩下がって見てしまっている点が、悲しくも上手いですね。コピーで使われている
『無理をして手に入れたものは、いつか離れてゆく。』
『私は他の女の子よりも早く老けるだろう。』
などはやはりズバ抜けて文章表現が高いことを感じさせますね。
『蹴りたい背中』 ではその文章表現ばかりが目立って先走り感があったけれども、今回はチャイルドモデルのブレイクと挫折、という骨太ストーリーがしっかり組まれていて、表現だけが浮くことがなかったように思えます。それだけこのストーリーが訴えることは大きいし、主人公の描き方も良かった。しかし18歳にして自我も常識もなく流され続けてきた夕子、彼女がこれから自我というものを獲得するにはどれほどの月日と労力がかかるのだろう。
なぜ十代を思春期というか、それは人生の中において思い悩む必要があるからで、それらを全て放棄して十代を過ごしてしまった夕子は、これから思春期を迎えるのだろうか。
などと最後考えました。
評価:




(5つ満点)
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