30代既婚子持ちだが言いようのない孤独感に苦しむ 『勝ち犬』 小夜子と、独身子なしであり会社経営者として必死に生き抜いている 『負け犬』 葵。立場が違うということは時に女同士を決裂させる。女を区別するのは常に女。性格も生活環境も全く違う2人が葵の会社で出会い、上司と部下の関係を超えて女の友情は果たして成立するのか?それぞれの生い立ちから現在の家庭環境を通じ、女の友情について正面から捉えた意欲作。第132回直木賞受賞作。
今度は全文読みました。角田光代は初めて読みましたが良かったです。特に葵の生い立ちからの描き方は秀逸ですね。主人公はやはり葵、でしょうか。
葵の高校時代の友人、ナナコの言葉 『本当に大切なものはあそこ(学校)にはないの。』 ではどこにあるのか?人生はそれを探し続ける旅なのでしょうか。
本屋大賞2005にもノミネートされましたが、本作は他の角田光代作品と比べても(数冊読んでみました)やはり構成がしっかり出来ていて、一番の秀作ですね。今後の作品が非常に楽しみです。
さて 『勝ち犬』 小夜子と 『負け犬』 葵それぞれの生活を軸に物語が進行して行きます。どちらも自分の生活を精一杯生きているのに、努力しているのに、どこか満足しきれていない。
『対岸の彼女』 という題は、小夜子と葵、お互いが川をはさんで立っていた(立場が違う)けれども、それは交流を断たれていたという意味ではなく、お互いを友として求め合っていたという意味だと私は感じました。学生時代ではなく大人になってから、つまり長い人生を生きていく上での他者とのつながりの1つである 『友情』 とは何かをテーマにした作品です。
評価:




(5つ満点)
大人になってみると、学生の頃は友達は簡単に出来ていたような気がします。でもちゃんと思い起こせばそうでもなかったはず。というのを葵や小夜子の学生時代を一緒に振り返って思い出しました。となると学生時代も大人になっても、そしてこれからばぁちゃんになっても友達を作るということは基本的には何も変わらないのかも。
現代人はみんな多少ムリをしているし、努力をしている。でも幸せを掴むのがなぜか難しい。だから今日もやっぱり生き抜いて、努力をしているのかもしれません。
勝ち犬、負け犬、という表現はあまり好きじゃないし的確とは言えませんが、敢えてここで使うなら、勝ち犬の視点と負け犬の視点をきちんと捉え、表現できている現実味溢れる作品でした。過剰な表現はなく、ただ現実が丁寧に描かれている点に共感できました。
角田氏は独身だと思いますが、既婚子持ち主婦の孤独感をよく表現できていると思います。
孤独感、というのは案外、立場が違っても同じなのかもしれないですね。
ちょっとムリをしている。自分のために努力をしている。なのに何となく上手く行かないなぁ。と感じている全ての方に、読んで欲しい作品です。
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