19世紀末フランケンシュタイン氏によるクリーチャー創造から約100年、その技術は全欧に拡散し屍者たちは労働用から軍事用に至るまで幅広く活用されていた。英国諜報員ワトソンは密命を受け、軍医としてボンベイに渡りアフガニスタン奥地へ向かう。彼の密命は 『屍者の王国』 の建国を確認することだったが。早逝した伊藤計劃の未完の絶筆を盟友 円城塔が引き継ぎ完成。
(伊藤計劃)いとうけいかく。1974年東京都生まれ、2009年没。武蔵野美術大学卒業。『ハーモニー』 で 日本SF大賞、星雲賞日本長編部門、フィリップ・K・ディック賞特別賞受賞。著書に 『虐殺器官』。
(円城塔)1972年札幌市生まれ。東京大学大学院博士課程修了。『オブ・ザ・ベースボール』 で文学界新人賞、『烏有此譚』 で野間文芸新人賞、『道化師の蝶』 で芥川賞、本作で日本SF大賞特別賞受賞。主な著書に 『バナナ剥きには最適の日々』。
伊藤計劃の絶筆となった本作のエピローグはSF短編集に収録されています。わざわざ借りてきてそこだけ読んだ伊藤ファンの私。本作が発表されると聞き興奮し過ぎて、ちょっと期待が大きすぎたかも。でもエピローグしかない物語を完成させてくれた円城氏には、感謝です。
死者を蘇るフランケンシュタインが 『技術』 として確立された19世紀。不死身の身体を持ち感情を持たない彼らは、軍事利用に持ってこい。戦争の勝敗はいかに多くのフランケン兵士を所有しているかにかかる時代となった。
舞台は第2次大戦前夜、世界は情報合戦となり『全地球通信網』 なる【インターネットケーブル】が海中に敷設されたという設定。
無線LANhaはまだないからケーブルそのものを海中に張り巡らせる。コンピュータもないからどうやってデータを取り出すか、というと、そこでフランケンが登場。フランケンをケーブルで繋ぎ、通信網経由のメッセージをフランケンが読み上げる(書き出す)という…!
この発想はかなり斬新。データのやりとりはICチップもまだ開発されてないため、なんと【パンチカード】を使用。パンチカード…名刺大の厚紙に色々な大きさの丸を穿けてデータを記録するものです。大昔(でもない)のテレックスとかで確かパンチカードを利用していたはず。
つまり大容量のデータは送れないはずなのですが。個々の細かい設定が19世紀という時代設定に合わせて非常に興味深く設定されています。そこはとても楽しめますが、全体のテーマ展開がかなり大胆で、着地点は若干納得いかないです。
フランケンを作る技術を開発した研究者が研究施設から逃亡、屍者を連れ 『屍者の帝国』 を建設しようとしているという。彼の目的は、その情報の真偽は。密命を受けたワトソンは何度も死線をかいくぐって何とかその研究者と接触するが…。
この研究者が世界的に有名なあの人物だった!という突飛な設定も面白いけどちょっと強引かも。屍者を作った彼の想いはどこへ行くのか。そしてワトソン、君の選択はそれでいいのか。
というラスト。すさまじい時代の変化という潮流に巻き込まれたワトソンと彼をめぐる人々。この時代ではそれも抗いがたい流れだったのかも、と読後しばらくしてから思うのでした。
若干納得しがたいラストですが、様々な設定は綿密で非常に興味深く、伊藤計劃のことをよく知る盟友 円城氏による創作だなぁと感動します。持つべきものは、良い理解者である良い友。
評価:



(5つ満点)
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