梨木氏が出会った留学先のイギリスでの下宿の女主人、ウェスト夫人をはじめとする人々との交流の回顧録。文化、人種の違いを認識しながらも拒絶することなく全てを受け入れようとしたウェスト夫人。下宿に集う様々な人種、信条の人々。旅先で、移動中に乗り合わせた人とのふとした会話。全ての出会いに魂の触れ合いと相手を思いやる気持ちを見出すことのできる梨木氏の、心の琴線に触れる1冊。
(梨木香歩)1959年生まれ。児童文学者のボーエンに師事。 『西の魔女が死んだ』 で日本児童文学者協会新人賞、『裏庭』 で児童文学ファンタジー大賞を受賞。著書に 『エンジェルエンジェルエンジェル』 『村田エフェンディ滞土録』 『春になったら苺を摘みに』 、絵本に 『ペンキや』 『マジョモリ』 『ワニ』 『蟹塚縁起』 など。
梨木氏の文学の根底に流れる異邦人感覚、と言うべきでしょうか。
『本当の故郷』 とは特定の場所ではなく、自分の心が故郷だと感じることができるところなのだ、ということを教えてくれる1冊です。
英、米、カナダと巡る梨木氏が自身が
『異邦人』 として感じ見聞したことを率直に書き綴った内容です。1つの章で場面があちこちに飛ぶことが多いにも関わらず不思議と飛んでいる感じがしないのは、梨木氏の中では全てが一連の出来事、想いであり、それが文章として的確に表現できているからだと思います。
評価:





(5つ満点)
正直梨木氏の文学、特に児童文学と呼ばれる分野の作品は、読み始めはやや読みにくい感がありますが、このエッセイは最初から最後まですんなり読むことができました。そして久しぶりに、しばらく経ったらまた読み返したい1冊になるだろうなと思いました。
『子ども部屋』 の章で。
私にとっては同じ風が吹いているところがいつも子ども部屋であり、そこがふるさとなのだ。
全くその通り、『風が吹くところ』 心が感じるところが、自分の故郷だと言う梨木氏。私も梨木氏のように心のまま、感じたままに生きたいと思うのです。
最も多く登場する古い友人、ウェスト夫人のことを 『受容する人』 と絶賛していますが、梨木氏自身も訪れる先々で多くの人と出会い、触れ合い、心を通わせ感じることができる人であることから、彼女自身も気配りのある人なのだろうと感じました。
梨木香歩ファンは必読です。英米カナダとその文学が好きな方にもオススメです。
PR