2011年のクリスマスイブにハワイの海底でグレゴリオ聖歌を正確に繰り返し歌うザトウクジラが発見された。そして1000年後の日本では階級化格差が完全に進み人々は違う格差同士の交流は全くない社会で暮らしている。極端に合理化が進み敬語を使う人間がいなくなる中、最下層に属しながらも正しい敬語を操る 『敬語使い』 である少年は、不老不死の遺伝子を巡り階層を奪取する旅を始める。毎日芸術賞受賞。群像連載を単行本化。
(村上龍)1952年長崎県生まれ。武蔵野美術大学中退。 『限りなく透明に近いブルー』 で群像新人賞、芥川賞、『コインロッカー・ベイビーズ』 で野間文芸新人賞、 『村上龍映画小説集』 で平林たい子文学賞、『インザ・ミソスープ』 で読売文学賞小説賞、『共生虫』 で谷崎潤一郎賞受賞。主な著書に 『69 sixty nine』 『ラッフルズホテル』 『トパーズ』 『5分後の世界』 『半島を出よ』 など。
半島を出よ、から早数年。待ちに待った(ということでもないが)村上龍氏の新作は、またしても問題作です(笑)。
見事に未来の格差社会を描き切った村上氏の潔さに、まず拍手です。格差の行き着くところはこういう社会か…とぞっとしてきます。最初は 『敬語使い』 がキーワードなのかと思いきや、途中から展開がドンドン裏切られていくので読了直後は何なんだよーと思ったのですが、後から考えてみると段々と納得してきました。何よりも 『歌うクジラ』 そのものの存在の裏切り方が、もう巧いです。
未来社会は実に複雑に5層位の生活層にカッチリ分かれています。隔離されGPSを体内に搭載された性犯罪者の暮らす最下層、 『風呂』 が唯一の娯楽だという下層 、ひたすら機械のように交代勤務を繰り返し経済食である 『棒食』 (イメージとしてうまい棒?)を食べ続ける中間層、政治・経済一切の世界の管理を行う上層、そしてひたすらに娯楽だけを追求し 『死なない(死ねない)生命維持システム』 によって生かされ続ける最上層。この各層を主人公の少年と共に縦断する旅は、幻滅もし、さもありなんと納得もしつつ、それぞれの世界を観終わった後ははーっとため息をつくほどでした。
途中あちこち 『こんなに社会を揶揄しちゃって村上さんだいじょうぶう…』 と心配になるほど、過激なところも多々あって誠に刺激的です。そしてラスト、人類の行きつく果ては 『歌うクジラ遺伝子』 なのか、本当に?
希望の感じられるラストでようやくちょっと救われた気持ちになりました、大人の方はぜひご一読を。
評価:(5つ満点)