娘の離婚に際し若い頃の苦い思い出が萄子に蘇える。東京オリンピック開催前夜の60年代の東京。戦争の痕跡は残りつつも人々は明るい未来に希望を持っていた。裕福な家庭に育った萄子は婚約者で刑事の奥田勝との挙式を控え、幸せの絶頂にいた。しかし奥田の先輩刑事の娘が惨殺され遺体で見つかり、現場からは奥田の痕跡が見つかったことから事態は一変する。もう自分のことは忘れろと電話をしてきたきり連絡が取れなくなり失踪した奥田。奥田は事件に関わりがあるのか、なぜ自分からも逃げるのか。萄子は奥田の影を求め川崎、熱海、焼津、福岡、そして沖縄返還前の宮古島へと舞台が移り変わる。そこで萄子を待っていた衝撃の真実とは。60年代の史実、風俗を背景にひたすらに婚約者を信じ続けた萄子の物語。
(乃南アサ)のなみあさ。1960年東京都生まれ。早稲田大学中退。広告代理店勤務等を経て作家活動に入る。『幸福な朝食』 で日本推理サスペンス大賞優秀作、『凍える牙』 で直木賞を受賞。主な著書に 『団欒』 『あなた』 など。
幸福の絶頂にいた萄子と奥田。それなのになぜ奥田は逃げ続けるのか。その理由を追い続ける萄子と韮山。見事に仕掛けられたワナのためとやっと分かるラストまで、目が離せない見事な展開。久々に読みふけった一冊だった。
昭和39~41年が舞台。東京オリンピック前夜の日本中の興奮に始まる、経済成長期へ入る日本の活気。それでいて忘れ去ったとは言い切れない敗戦後の苦しい生活の記憶が時折ふと現れては人々を苦しませる、そんな時代を60年代生まれの乃南氏が描ききっている、さすが本職作家。
乃南の描く刑事、警察像は決してキレ者でもなく勘が冴えるでもない。定年まで巡査だろうと自認する韮山もおよそ手柄とは無縁でただ長年培った刑事としての勘と足を使って聞き込みをするという地道な刑事だ。玉木も同じで、よく一人の刑事の勘だけでめくるめく解決がもたされる他の大げさな刑事モノと違い、地についているというか現実味のある展開が非常に好ましい。かと言ってつまらないかということは決してなく、いつもすぐそこに手が届きそうな奥田がまたスルリと逃げてしまう、その萄子の悔しさ、悲しさ、やるせなさがひしひしと伝わってくる。
そしてついに宮古島で奥田を見つけ出してからは、もう必死で読み進んでしまった。これは新聞小説だったそうだがこんなに手に汗握る展開で、毎日読者の皆さんは続きが待ち切れずさぞ辛かっただろうなぁー。
評価:(必読。)
とても
私も初心者