出口のないこの社会で彼らに未来は開けるのか?人口12万人の寂れた地方都市ゆめので鬱屈を抱えながら生きる5人の人間が陥った、思いがけない事態を描く群像劇。 現代社会の抱える多くの問題を盛り込んだ意欲作。
(奥田英朗)1959年岐阜県生まれ。プランナー、コピーライター、構成作家を経て作家に。『邪魔』 で大藪春彦賞、『空中ブランコ』 で第131回直木賞、『家日和』 で柴田錬三郎賞、『オリンピックの身代金』で吉川英治文学賞を受賞。主な著書に 『イン・ザ・プール』 『ガール』 『サウスバウンド』 など。
現代社会のひずみ、ゆがみを全部詰め込んだ、奥田英朗が贈る社会派作品。なかなかにキツイ内容です。平成版オリンピックの身代金、と言ったところ。諸処の無理がたたって最期に…とラスト全ての線のまとめ方はかなりスマートで、さすがの筆力です。群像劇ってどうしてもまとまらず、登場人物も比重が偏っていたり無駄な人がいたりしてまとまらないものが多いのですが、この作品はそれがないです。
新興宗教、主婦売春、アルコール中毒、浪費癖、政治家の企業との癒着、引きこもり、略取誘拐、生活保護、外国人労働者派遣、バスの来ない団地。これだけの現代社会が抱えるありとあらゆる種類の課題を飲み込んで、なおかつドラマを見事に組立ててしまう、奥田氏の作家としての手腕には、ただただ脱帽です。
ただ…読後は相当気が滅入ります。次作には明るいものを期待しています。
評価:(5つ満点)