国会で見えなかったことが刑務所で見えてきた…。秘書給与事件で実刑判決を受けた元衆議院議員が、刑務所内で配置されたのは 『寮内工場』 。寮内工場とは何か、その実態は。真摯に服役する中、日々起こる様々な出来事、実刑判決を受けた事件への悔悟、家族への思慕、そして多くの受刑者達同囚への想いを綴る。第3回新潮ドキュメント賞受賞。
(山本譲司)1962年北海道生まれ。早稲田大学教育学部卒。菅直人代議士の公設秘書、都議会議員を経て国政の場へ。衆議院議員二期目の2000年、政策秘書給与流用事件を起こし、実刑判決を受けた。
この本が出版されたのは2003年。正直その当時は山本氏の釈明本だとばかり思っていましたが、今年になりこの続編と言える
『累犯障害者 堀の中の不条理』 が出版されたことにより一緒に紹介されている本書の記事を見て、改めて読んでみようと言う気になりました。そして改めて記事の通り、山本氏は本当に潔い人物なのだと痛感しました。
本書が世に出た意義は大きく2つ、1つは山本氏が逮捕され一審での実刑判決を受け服役した事実、罪を罪として認め自身が受け入れたという真摯な姿勢を世に示すこと。そしてもう1つは刑務所内の実態、特に山本氏が配役された
『寮内工場』 と呼ばれる作業所の実態がつぶさに描かれたこと。誰もがこの実態にショックを受けるだろうと思うほど、寮内工場の現状は壮絶である。そしてそこで真摯に服役した山本氏には本当に感動を覚えます。
評価:




(5つ満点)
本人による回想記だから多少誇張などがあるのでは、という意見もあるかもしれません。そういう意見を踏まえてもなお、この寮内工場での服役は非常に耐えがたく辛いものであったに間違いありません。そんなことないだろうという方はぜひ本書を読んでいただきたいです。そしてこれが現代の刑務所の現状であることも本書からはよく分かるのです。現場の刑務官の苦労、様々な複雑な事情を抱える受刑者達。
そんな狭い社会で身も心も擦り切れそうになる中、氏を支えたのが毎日届いたという奥さんからの手紙と定期的に届いた姉や父からの手紙だったそうです。家族の絆についても深く深く考えさせられます。
花輪和一 『刑務所の中』 と比較してみると、面白いかもしれないです。ちゃかしているのではなく、刑務所という場が、そこで過ごす人の思想、信念によりこれほどまでに印象が違うものか、ということが見えてきます。もちろん花輪氏の作品は氏自身もエンターテイメントとして描いたため、内容は多少なりともフィクションとして捉えてもいいのかもしれないですが、2冊の内容の違いには本当に愕然とします。
色々なことを考えさせてくれた一冊です。
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