歳を取っても自分の夢にかけ、和食器と珈琲豆の店を営む大正生まれのお草。ある日ひょんなことからとあるマンションの一室で虐待が行われていることに気付き、探偵のまねごとを始めるが…。おばあちゃん探偵お草さんの活躍と周囲の人々との温かい交流を描く。
(吉永南央)1964年埼玉県生まれ。群馬県立女子大学文学部卒業。本作収録の 『紅雲町のお草』 でオール讀物推理小説新人賞を受賞。著書に 『オリーブ』 『誘う森』 『Fの記憶』 。
(収録作品)紅雲町のお草/クワバラ、クワバラ/0と1の間/悪い男/萩を揺らす雨
短編集 『オリーブ』 で感銘を受け、早速吉永南央の著作を片っ端から読むことに。デビュー作を含む本書もアタリ

です。また新刊が楽しみな作家が1人増え、嬉しい限りです。
お草さんは本当に普通のおばあちゃん、独身で友人や人との距離を上手に取りながら好きな店を営む。理想の暮らしです。そのおばあちゃんがなぜ探偵に?というところがとても巧い。毎朝決まった道を散歩するお草さんだからこそ気付くことができた事件の数々、見事な解決への道、それも大活躍!というよりはああこういう解決の方法もあったのか!と読者を唸らせる、見事な仕掛け。
日常の中にこそ、事件は潜んでいて他人はそれを見過ごしがちだけれども、当人にとっては大事件であるということがなんと多いことか。お草さんが周囲の人からボケてしまったと勘違いされるくだりのお草さんの悲哀ぶりなど、もう身につまされます(涙)。 『オリーブ』 でも隅々まで感じた物語構成の巧みさが、デビュー作でもしっかりと感じられます。
大きな事件ではないからこそ感じる、人の縁の不思議さ。女性作家ならではの丁寧さが沁みます。
評価:




(5つ満点)
PR