中国の東北部の小さな町でレストランに勤める林玉玲。未亡人だが美貌が自慢。店の店長が大事にしている金魚の世話係を頼まれている。結婚して日本にいる娘の出産の手伝いのために来日した玉玲は、娘から日本人との再婚を勧められるが…。
(楊逸)ヤン・イー。1964年中国ハルビン市生まれ。お茶の水女子大学卒業。在日中国人向けの新聞社を経て中国語教師。『時の滲む朝』で芥川賞受賞。他の著書に 『ワンちゃん』。
楊逸の小説に登場する中国人女性は皆、たくましい。つましい暮らしに不平不満を言わず、それをありのまま受け入れる、というたくましさ。本来人は皆そうであったはずなのに、どこで日本人は間違ってしまったのだろう?
玉玲は日本で暮らす娘の出産を手伝うため来日する。日本語も分からず右も左も分からない彼女が出会う日本社会。そこで暮らす森田と名乗る中国から帰化した女性、日本人として暮らす道を選んだ彼女の存在と発言、考え方を通じて日本という国が抱える歪みを垣間見ることができる。何でも揃っていて人々は豊かで満たされているはずなのに、玉玲が強く感じるのはその豊かさに対する憧れではなく、国に残してきた内縁の夫のこと。彼の存在そのものと言うより彼を含めた彼女の故郷、帰るべき故郷、ではないだろうか。
望郷、についてしばし考えました。
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