その素直さゆえに闇番は賢也に穏の秘密を教え、やがて穏を追われる身となる賢也の命を助けようとする。始めは賢也を疎ましいと思っていた闇番の心の移り変わりゆく様も、穏を出た賢也が始めて目にする外の世界も、何もかもが賢也と同じく新鮮だ。穏を異世界、異次元の世界として描きながらその位置付けをハッキリさせている本作は破綻がなく、素晴らしい。
一人称が賢也から茜、そしてトバムネキと章により変わるのも、全て 『風わいわい』 を介していることから自然の流れでありとても分かりやすい。 『風わいわい』 の存在が物語では大きな核であり、全ての事象、世界の成り立ちまでを理解させてくれる存在となっている。
その世界観の描き方も秀逸。現実社会は穏のある異次元から見ると巨大なボウルの上に浮いているように見える、そこへの入り口は、日本の場合は神社の鳥居だった。振り返っても鳥居の向こう側に異次元はもう見えない。
何より今回も作品全体に流れる民族的色合いが心地よい作品だった。意味不明な妖怪物ではなく、私達の生活のすぐ隣にこうした森羅万象が存在していることを気付かせてくれる、そんな作品だと思う。
読んでいて心地よい。そんな作品にこれからも出会いたい、そう強く思わせてくれるのが恒川作品。
次回作に、ますます期待。
無題
無題
これからも