いかに周囲の人々に大事にされ、守られて生きてきたか。そのために自分だけが知らないことが多かったか、夫に裏切られ続けてきたか。でも敏子には言いたい、貴女はだんだんと強くなっていったけど、それでも夫との日々には何らかの信頼関係があったはずだと。
夫の愛人が敏子に、生前夫が 『女房なんて古い家具と同じ、取り替えるのも面倒なのでそこに置いているだけ』 と言っていたと言われ、ショックを受けるシーンがあるが、これは現実をよく表していると思う。でも、その古い家具は生活には必要なモノなのだ。ないと困るし、寂しいものなのだ。
でもそんな風に言われていた人生なんてイヤだと敏子は一つずつ、それまでは避けてきた他人とのぶつかり合いも経験し、徐々に強くなっていく。夫はまだ許せないが、少しずつ彼の生き方を理解したい気持ちが出てきたというところで、物語は終わる。
まだまだ自分も強くなれる。
そう思わせてくれた一冊だった。敏子は59歳にして不満をぶつけるべき相手を亡くし、力になってくれるはずの子どもたちとは意見が合わず決別を決意したが、私はまだ33歳。これからどう生きるべき?と考えてしまった。
あまりにも結婚の現実を描いた作品なので、これから結婚される方にはオススメしたくありませんが、結婚して数年経つご夫婦は必読です。
しかし桐野夏生は上手い。秀逸です。新聞連載小説でここまでリズムよく書けるものだろうか?
まさに人生 『魂燃えよ!』 ですね。