アントワネットの生きた小さな世界
主演のキルスティン・ダンストはとても良かった。輿入れのシーン、まだ14歳という幼さと無邪気さを残しつつも、母である偉大なる女帝マリア・テレジアの命を受け、自らも自覚を持ってフランス王室へ嫁ぐアントワネット。
国境の 『受け渡し場所』 で愛犬モップス(パグ犬)を取り上げられることから始まる、彼女を取り巻く環境の大きな変化。
監督であるソフィア・コッポラは
『マリー・アントワネット自身の視点だけを大切にした』 と語っているように、この映画で描かれるアントワネットは彼女だけの狭い世界を生きています。
決して楽しいだけの世界ではなく、窮屈で逃げ場のない苦しい世界だったと思うのは、結婚当初から世継ぎを産むよう周囲の人々や実母から手紙で何度も強要され、2人の子どもをもうけてようやく安堵するも、若くして即位した夫ルイ16世は政治のこともよく分からず、当然アントワネットも政治も夫ですらその人柄をよく知らぬまま過ごしていたこと。
やがて彼女はしきたりに支配されていた王宮を嫌い、自然の中で自由に振舞うことを好み、離宮 プチ・トリノアンでほとんどの日々を過ごすようになるのだが、それが余計に世間や夫との距離感を広げて行ったのだろう。
歴史で言われているほど彼女が贅沢をしているように感じないのは、アントワネットの視点から描いた作品だからだろう。マリア・テレジアの末娘として生まれ、愛しまれ、フランスでは王妃という最高位にありながら、それでも彼女は自分らしく生きることさえ自分では選択できなかった。だから彼女が選択できる範囲で
『自分らしく』 を模索するしかなかったのだ。それが2人の子どもに恵まれる前に買い漁った豪奢なドレス、靴、奇抜なヘアスタイルなどのお洒落、賭け事におしゃべり、それが続く毎日だったのだろう。
評価:





(5つ満点)
2人の子どもをもうけてプチ・トリノアンで過ごすアントワネットは非常に好印象に描かれている、シンプルなドレスを着て庭でハーブを育て、鶏を飼う日々。子ども達にもそれを伝えるアントワネット。彼女は幸せだったのだ。
だから彼女にとって、突如民衆が蜂起し、王宮まで押し寄せてきたフランス革命そのものが、寝耳に水だっただろう。理由など全く分からなかったのではないだろうか。歴史では彼女はルイ16世と子ども達と共に国外へ逃げようとし、その途中追っ手に捕まりパリへ連れ戻される、となっているがこの映画ではその表現はない。
親しい友人達を王宮から逃がした後も、アントワネットは子ども達と共に夫であるルイ16世の傍に残ると宣言する。これが彼女の最初で最後の、自分で選択した 『生き方』 だったのかもしれない。
ラストシーンがまた良かった。パリへ連行される馬車の中で夫ルイ16世が庭を眺めるアントワネットに 『別れを告げているのかい』 と尋ねる。彼女は 『並木を眺めていたの。』 とだけ答える。
無理を言って作らせた並木。それを眺めながら彼女は最期に何を思ったのか。
拍手をしない慣習のパリ、オペラ座で拍手をし観客全員までも共に拍手をさせた、生まれながらの愛らしさを持ち備えたアントワネット。キルスティンはそれを存分に表現できていたと思う。
何より観ていて華やかな衣装、靴、小物類、賭けに使うピンクのコインまで何もかもが美しく愛らしく、本当に飽きなかった!あれを眺めるためにやっぱりプログラム欲しいなぁ。諸所に挿入されるPopsも効果抜群で、新しいアントワネット像を見事に表現していたと思います。
PR