勝元は民を守るためならば刀(武士道)を捨てるべきであったのかもしれない。しかし彼にとって刀を捨てることはその生きるべき信念を捨てることであった。それは【侍】として決してできないことだったのだ。その決断を下した彼に民は恐れることなく従うのである。
決して勝元が民に死を強いる暴君ではなく信念を貫き通す侍であり、民は心から彼を理解し付き従う、ここにオルグレインは深く感動を覚えたのでしょう。
とにかく渡辺謙が素晴しい。全編を通じての存在感、トムクルーズを凌ぐ迫力に圧倒されます。真田広之や小雪はあまり好きな俳優ではなかったのですが今回で少し見方が変わりました。ただ小雪は少し若すぎるかなぁ。静かなたたずまいの中に、もう少し夫を殺された無念さや恨みの念を表現して欲しかったような気がします。
全体を通じてオルグレインが武士道に傾倒していく様や、最後の場面で天皇に謁見し彼自身の武士道を体現する場面まで、緩やかに流れてゆく展開が素晴しい作品でした。
我が家では全員鑑賞したのですが、義母が『日本人以外の人が観て共感するだろうか』と話していました。確かに日本人だからこそ共鳴できる部分があるのかもしれません。民を救うためならば勝元は体制に従えばよかったのかもしれない、我を通して民を勝ち目のない戦に巻き込んだとも取れます。
最後まで勝元がこだわっていた、心に浮かぶ詩(辞世の句)の最後が詠めない、という台詞に日本人としての深い情感を憶えました。