風俗店での働きぶりと人間関係が後の松子の人情を育てた部分が大きいので、本当はそこもじっくり描いて欲しかった。あと刺し殺してしまうヒモとの生活もそこまで追い詰められる松子を本当は描いて欲しかったけど、やっぱり時間的な問題でムリだったのかな。
どちらかというと映画では、松子の人生を子ども時代に遡り、子ども時代から病弱な妹と妹を大事にする父親にコンプレックスを抱いていたことに焦点を絞っています。最後の回想シーンにも子ども時代の松子が出てきて、この回想シーンに時間をどうしても割きたかったから他の部分を割愛せざるを得なかったのかも。
でも映像ならではの表現をしなくては原作との違いを出せないので、これはいいのではないでしょうか。
原作でも映画でも松子は与えて与えて与え続けて、燃え尽きて死んでいきます。しかし人は 『何をしてもらったか』 ではなく 『何をしてあげたか、何が自分にできたか』 を自分に問える人間になりたい、と言ったのは、松子の甥の笙の恋人 明日香です。
原作では明日香は松子の甥 笙と一緒に松子の死後アパートの片付けに行き、その際松子の人生に興味を持ち一緒に松子のことを調べてみよう、と笙に言い出す役なのですが、映画では違っており、毎日をフリーターとしてダラダラ過ごす笙に愛想をつかして出て行ってしまうという役なのですが、その明日香が最後に笙の家の留守電に入れてきたメッセージが上記のようなこと。
この明日香に言わせたセリフが今回の映画のテーマでしょう。
何をしてもらったか。あの人は何をしてくれた、この人は何をしてくれた、ではなく自分は周囲に人々に何をしてあげたか、してあげることができるのか。それを考えるのが人生ではないのか。
笙は松子の人生を調べていくうちに、その事実に気付くのです。
そこから笙が這い出してくるかは、また別のお話。
この映画はわざとパロディにしている部分も多くて、最初はゲッと思ったけどそれも面白いかも。好みが分かれると思いますが私はなかなかいい出来だと思いました。原作ファンも十分楽しめます。