箱根でジョギングをしていたはずの小田桐はふと気がつくとどこだか解らない場所を集団で行進していた。そこは5分のずれで現れた 『もう一つの日本』 だった。 『もう一つの日本』 は地下に建設され人口はたった26万人に激減していたが、民族の誇りを失わず駐留している連合国軍を相手に第二次世界大戦終結後もゲリラ戦を繰り広げていたのだ。
(村上龍)1952年長崎県生まれ。武蔵野美術大学中退。 『限りなく透明に近いブルー』 で群像新人賞、芥川賞、『コインロッカー・ベイビーズ』 で野間文芸新人賞、 『村上龍映画小説集』 で平林たい子文学賞、『インザ・ミソスープ』 で読売文学賞小説賞、『共生虫』 で谷崎潤一郎賞受賞。主な著書に 『69 sixty nine』 『ラッフルズホテル』 『トパーズ』 『半島を出よ』 『歌うクジラ』 など。
村上龍
『歌うクジラ』 読んだ?
『半島を出よ』 は強烈だったよね、という話をしていて、本作は読んだ?と聞かれ、まだ。と言ったら是非読んでね。と貸していただきました、ありがとうございます。
97年村上氏に自身の最高傑作と言わしめた本作。強烈なんてもんじゃなく、激烈でした
あらすじにある通り。現代を生きていた小田桐はある日突然
『もう一つの日本』 に飛ばされます。パラレルワールドです。そこではまだ第2次大戦が続いていて、日本は国土のほとんどに原爆を落とされ居住地を地下に移動し、文字通りアンダーグラウンド生活をしていた。そこに活動するゲリラ兵士達は誠に優秀で、携帯型端末(iPad状)を駆使し、国連軍相手にあちこちでゲリラ奇襲攻撃を仕掛け、世界のゲリラから尊敬される立場にあった。もうここまでで相当背筋が寒くなってきますね。日本軍兵士はキューバ革命などにも助っ人で登場、兵力・兵法の輸出をしております。ここまで書いちゃって村上さんだいじょうぶう…といういつものセリフを吐く私。
この恐ろしい世界を、現代に生きていた小田桐の視点で描いたところがまず巧いです。彼から見るアンダーグラウンドの異常さ、彼ら兵士の持つ
『民族の誇りと信念』 の恐ろしさ、極端なまでのナショナリズム。毎回言いますが村上氏の綿密な設定には本当に感嘆させられます、戦争が続いていればこの世界が
『有り得る未来』 だったかもしれないのです。
そして、絶対に行きたくない(生きたくない)世界でもあります。その世界に迷い込んでしまった小田桐、壮絶な戦闘に幾度も巻き込まれ、ラスト彼の採った選択は。小田桐のアンダーグラウンドにおける未来が気になります。最近平和ボケしているな、と思った方にオススメ。世界のどこかでは私達の目や耳に届かないだけで、アンダーグラウンドが存在しているのかもしれません。
評価:




(強烈!)