妊娠中絶を決めた妻に次々と起こる怪奇現象。妻は霊にとり憑かれてしまったのか。恐怖と愛情に心が引き裂かれそうになる若き夫を助け一人の精神科医が戦いを始める。妄想か心霊現象か。戦慄に満ちた愛情を描く。
(高野和明)1964年東京都生まれ。ロサンゼルス・シティカレッジ中退。帰国後脚本家となる。本作で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。主な著書に 『13階段』 『グレイヴディッガー』 『幽霊人命救助隊』 など。
マタニティヒステリーの話と言えばそれまでですが、説明しきれない妊娠した妻の豹変ぶり、夫へも影響を及ぼす精神障害とそれと闘う精神科医の攻防がすごいです。夫側の視点と医者の視点の書き分けが見事ですね、夫は妻の異変は憑依だと信じているし、医者はあくまでも精神障害だと理解しようとする、そのせめぎあい。妻の豹変ぶり(憑依ぶり?)には読者も衝撃を受けます。
世の中には理屈で通らないことも多いがそれを第三者の立場を崩さず冷静に見つめ続けようとした精神科医 磯島の視点を見事に描いた、本作も秀作です。人物設定も細やかで適当さを微塵も感じさせない小説、これぞ小説のあるべき姿ですね。
評価:(5つ満点)
マイケル・ジャクソン最期のコンサートをリハーサル映像により奇跡の映画化。2009夏ロンドンで開催されるはずだったコンサートTHIS IS ITの、100時間以上に及ぶリハーサルと舞台裏の貴重な映像から構成したドキュメンタリー。
MJという人物についてはこれまでマスコミでいろいろ言われてきた奇人変人というイメージしかなかったのですが、それをくつがえすというか、基本的には同じなのかもしれないけど彼の、自分の音楽に対する情熱というか執着が、非常によく伝わってくる映画でした。彼の才能、カリスマ性、すべてがまさに超ド級で、King of Popの名にふさわしいですね。出演してる若手ダンサーらが、自分もMJと同じ舞台に立つのが夢だったと口を揃えて語る様子に涙が出つつも、やっぱりちょっと狂信的と言えなくもないです。でもここまで彼に陶酔できる周囲の人々を羨ましくも思いました。
MJは本当に神経質で完璧主義だけど、求めるものは 『観客にはオリジナルと同じものを』 。常に絶頂期の自分を表現し続けようとしたMJ、だから早世したのでしょうね。
Black or White
Beat it
I just can't stop loving you
など名曲の数々は、MJについては何も知らないと思っていた私もちゃんと知っていて思わず手足が動きましたもんね。改めて彼の偉大さを感じました。
映画鑑賞後しばらくは、運転中の車内はMJエンドレスになったは言うまでもありません(笑)。普段あまりドキュメンタリー映画を観ない私ですが、友人にお誘いいただいて本当に良かったです、これからもよい映画誘ってくださいね。
評価:(5つ満点)
人気シリーズの新宿鮫、佐久間公、ジョーカーが勢揃い。大沢在昌のすべてが堪能できるハードボイルド短編集。新宿鮫シリーズの短編小説 『夜風』 を初収録。
(大沢在昌)1956年名古屋市生まれ。慶応義塾大学法学部中退。『感傷の街角』 で小説推理新人賞を受賞しデビュー。『深夜曲馬団』 で日本冒険小説協会最優秀短編賞、 『新宿鮫』 で日本推理作家協会賞長篇賞、吉川英治文学新人賞、「新宿鮫 無間人形」で第110回直木賞、 『心では重すぎる』 で日本冒険小説協会大賞、『パンドラ・アイランド』 で柴田錬三郎賞を受賞。
佐久間公の短編などところどころ面白いものもあるにはあったんだけど、全体として煩雑な感じ。ハードボイルドって何だっけ?もう少しパンチの欲しかった短編集かな。最近連作短編が流行りなものだからそういう話同士の繋がりを求めすぎちゃうのかもしれないです。
出版社の 『ランダムハウス講談社』 というのも講談社との違いは何なのだろう?どういうジャンルのものをランダムハウスで出すのかな。
評価:(5つ満点)
新薬リレンザ
新型インフルエンザ罹患記録です。ものすごい猛威を振るっている新型インフルエンザ、ワクチン製造が到底追いつかない中うちの2王子も見事に罹患しました。その経過を来年のために記録として保存させてください。
◆第2王子罹患
市内の小中学校で合唱コンクールや音楽/学習発表会が新型罹患者続出のため次々と延期/中止措置となる中、第2王子の小学校では音楽発表会に続き学校バザーもどうにか無事決行されました。実際問題としてバザーの直前キャンセルはできないのですよ、各PTA委員会とも食堂や販売の準備に入ってしまうと食材や販売品のキャンセルはもう、効かないのです!準備を始めたらもうやるしかない。ということでどうにか決行できたのはとても良かったのですが…。
月曜日から第2王子は37度の発熱で怪しいな、と思い小児科へ行き、お医者さんは 『熱もそんなにないけど、念のためインフルエンザ(簡易)検査しますか』 と検査してその後待合室でのんびり待っていたら… 『第2王子さん隔離室へ入って!』 えっ陽性?と親もお医者さんもビックリ。A型判定でした。
代休明けの火曜日に学校へその旨電話すると 『第2王子くんで15人目の欠席です。』 おおすごい、新記録樹立か?結局その日は19人欠席、出席した8人のお友達は先生と学級閉鎖措置が決まるまで午前中はゲームをしたりしていたそうですが、そんなことしてないで一刻も早く退下させてもよかったんじゃ?と今更思ったりして。その後残った8人の中からも2名ほど罹患者が出たそうですが、スゴイのはその中でもやはり罹患しなかった子ども達がいたことです。やはり何らかの抗体があるのだろうか?
抗体と言えば翌火曜日から熱が上がり嘔吐もひどい第2王子に付き合い1週間仕事を休んだ私、つきっきりで添い寝しましたので間違いなく私も罹患する!と覚悟していたというのに、罹患しませんでした。これはどう考えても私に抗体が備わっているとか思えません。なお我が家の大人は全員罹患しませんでした。
◆第1王子罹患疑い
第2王子罹患時点で中学校保健室にまで報告する私。やりすぎでしょうか…いずれにしても小中学校間の連絡は密なので、小学校で罹患した子どもの兄弟が中学校に在籍している場合、職員室経由で連絡がすぐ行くのですよ。個人情報よりも完全に優先される伝染病、恐いですね-。
さて第1王子は水曜日までは元気でしたから登校してました。新型が出始めの頃は兄弟罹患が出た時点で罹患していない兄弟も出校停止になっていたとかで…そりゃあんまりやりすぎ?子どもの学ぶ権利はどうなるのだ?ということで少し措置が緩和されていて良かったです。それでも第1王子らは毎日昼休み、保健室に集められて検温していたそうで、ついに水曜日37度ということでお迎え命令が下りました。
家で検温すると36.9度。えーっと思いつつ小児科へ。やっぱり36度。お医者さんいわく 『熱が低いので検査しても結果が出ないでしょう。ま、多分罹患だからリレンザしておきましょう。』 と処方されたのはリレンザのみ。そして結局その後発熱もその他の症状もなく、金曜日にはもう登校許可が下りてしまったのです。
しかしながらお医者さんいわく 『もしかして第1王子くんは罹患していないかもしれない。リレンザでブロックしてしまったので新型の抗体がついていないかもしれないのでもう一度罹患するかもしれません。』 えええーっ。それって良かったのか悪かったのか…。結局第1王子の罹患はもはや確認しようがなく、このまま行くと新型のワクチン接種ということに?
◆ダブルリレンザ
そんなわけで我が家には一時期2つのリレンザが。異常なまでに薬ギライの第2王子も粉しかないタミフルの服用を諦め、最初からリレンザです。何度も失敗して薬を吹き上げましたが…とりあえず半分以上は吸ったであろう。ということでヨシとします。その他の薬(錠剤)を飲ませるのにも異常に苦労しましたね…もう病気の何がイヤって、薬を飲まない第2王子に飲ませる苦労ですよ!! ほとほと疲れ果てた一週間でした。
◆発熱カレンダー
今回はこう見ても発熱はそれほど高くなく、第2王子も坐薬は1回しか使用しませんでした。ひどい嘔吐も1日のみ。第1王子は嘔吐、その他の症状は一切なしです。やっぱり罹患してないと考えた方が妥当かも…。 ワクチン接種の可能性は濃厚です。
経過 | 第2王子 | 第1王子 |
1日目PM | 38.3 | - |
2日目AM | 37.7 リレンザ↓ | - |
PM | 38.1 嘔吐 | - |
夜 | 37.7 | - |
3日目AM | 38.9 坐薬 | 36.6 |
正午 | 37.2 | - |
PM | 36.7 | - |
4日目AM | 37.3 | 36.7 |
正午 | 37.1 | 37.7 リレンザ↓ |
PM | 36.8 | 37.0 |
5日目AM | 36.6 | 36.7 |
PM | 37.2 | 37.1 |
6日目AM | 36.7 措置解除 | 36.7 措置解除 |
PM | 36.6 | 36.6 |
7日目PM | 36.7 | - |
誰からも愛される容姿と性格を持ちながら、自身は幼い頃に受けた性的いたずらによるトラウマを抱える那由多。資産家の家に生まれ何一つ不自由なく生きていながらも、教師との不倫に悩む淑子。成績優秀で強い意志を持ち周囲には孤高の人と思われながらも自分にないものを持つ那由多に密かに深い思いを寄せる翠。カトリック系女子高に通う17歳の3人の少女たちが織りなす繊細な心を描く。
(三浦しをん)1976年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。『まほろ駅前多田便利軒』 で直木賞受賞。主な著書に 『風が強く吹いている』 『光』 『三四郎はそれから門を出た』 など。
粗削りながらテーマが確立されており、私的には三浦しをんの作品のうちではかなりの秀作と思った一作。期待以上の作品でした。確かに描写は情景も心情もややぼやけるところがあるにも関わらず、女子高生らの不安定な精神を全力で描こうとしたところに非常に好感が持てます。
幼い頃の心の傷を引きずり続ける那由多、それを打ち明けることもなく分かってもらえないまま死んでしまった母に対する喪失感、永遠に理解してくれないだろう父、そんな思いを抱える自分の世界の外で明るく暮らす兄。家族に守られていた時代を経て子どもは外の世界へ巣立っていくはずなのに、その守られるべき時代に 『守られていなかった』 という記憶しか残せない那由多の辛さ。誰とも希薄な関係しか結べない自分を持て余す、まさに青春。
ミッションスクールの国語教師と関係を持つ淑子。家は鎌倉でホンモノのお嬢さん(うう羨ましい)、夏休みはモルジブへ海水浴だ。自分はこれだけの愛情を彼に注いでいるのに彼は何も返してこない、苛立ちに悩まされる日々。一方通行の愛情を押し付けがちな10代の恋愛、それに苦しみつつもそこから逃れられない少女。脱却、成長の道はどこに。
学校でも取り澄ましていると皆に思われている翠。ごく普通の家に生まれ家業の本屋の店番もする翠、幼稚舎からのお嬢さん方には 『中学からの(入学の)人たちとはなじめないわね』 と言われる存在である自分。那由多、淑子、翠の3人では一番翠が自我の確立ができているものの、それでも自分の想いを持て余す翠。
そんな不安定な3人をつなぐ唯一の大人が学校司書の笹原。彼女の存在がクラスになじめない自分を認めてくれる大人、という価値観になっている。笹原のいる図書館が那由多と翠にとってもオアシスとなっているのがよく伝わってくるし、それを知っている淑子もそこへ加わりたいがうまく加われない、という描写もよく伝わってくる。
いやー。しをんちゃん本当に感覚が女子高生なんだわ。自意識過剰な青春時代。それは本書の文庫解説の歌人 穂村弘とまったく同じなのだった!そう文庫の解説はホムラさんなのです、これまた最後まで楽しめる、大変お買い得な文庫です。非常に私好みですね。
評価:(5つ満点)