ただ死ぬなよって、それだけ言えばよかったんだ。心療内科の薬が手放せない青年、倒産しそうなデザイン会社の孤独な女社長、親の過干渉に苦しむ引きこもり少女。壊れかけた3人が出会い、転がるようにして行き着いた海辺の村で彼らがようやく見つけたものは。入り江に迷い込んだクジラを見るために連れ立った3人の旅を描く。 『yomyom』 掲載に書き下ろしを加えて単行本化。
(窪美澄)1965年東京都生まれ。カリタス女子中学高等学校卒。フリー編集ライター。『ミクマリ』 で女による女のためのR-18文学賞大賞、同作所収の 『ふがいない僕は空を見た』 で山本周五郎賞受賞。
(収録作品)ソラナックスルボックス/表現型の可塑性/ソーダアイスの夏休み/迷いクジラのいる夕景
秀作。ぜひご一読を。うちで取っている地元紙の記事に、著者 窪美澄氏の記事がありました。震災後、何をしていいのか分からなかった時期に、窪氏も本に救われたとありました。その記事から。
デーリー東北 2012/3/4より
著者に聞く 小さくても強い物語の力 「晴天の迷いクジラ」 窪 美澄さん
「昨年の震災で憂鬱な気分だった時も、今村夏子さんや西加奈子さんの作品を読んで、ああ面白かった、いい日だったと、小さくても強い力をもらった」と振り返る。
ここが、私と同じだ!と思いました。今村夏子、西加奈子。
「いい物語は、ぽーんと遠くに飛ばしてくれて、戻って来ると今の自分が少し変わっている。私もそんな本を書きたいですね」
その通りだ !! ということで早速本書読んでみました。大当たりです

また素晴らしい作家に出会うことができて、まことに幸せです。
ソラナックスルボックス
あまりにも忙しいデザイン事務所で働く由人は給料未払い24時間以上勤務。女社長は鬼のような人、先輩には
『俺たちもみんな行ってるから』 と心療内科にまで行かされる。ついに由人はもらった薬を一気に飲んでしまう。その由人を救ったのがなぜか鬼の女社長。社員のことなど虫けらのように思っていたはずの彼女がなぜ…?
表現型の可塑性
その社長がなんと第2章の主人公 野々花。彼女の壮絶な過去がここで語られる。正直この2章が一番辛いです。あんまりすぎます。野々花はただ、表現すること、絵を描くことが好きだっただけなのに。
ソーダアイスの夏休み
その後第3章では女子高生 正子が主人公。正子は名前の通り母親には常に正しいことをするよう求められている。なぜか、それにも深い事情があった。母親の立場から見ると正子の母の異常なまでの正子への執着は、理解できる部分が多くこれまた辛いのです。
迷いクジラのいる夕景
そして終章でみんなは出会い、小さな海辺の村の入り江にはまってしまったクジラを見に行こうということになる。クジラ…その象徴する意味は。と書くと、いかにも苦労連続の人々の話を集めたようですが、この作品のすごいところは由人も野々花もそして 正子も、すごい環境にありながらもその環境は決して荒唐無稽ではなく、誰しも陥る可能性のある状況だということです。ものすごいリアリティが迫ってきます。3人の環境は誰にでも、つまりこの私にもあり得る状況だという状況です。
3人の置かれた過酷な、そして実にありふれた状況を、ぜひ本書を読んで確認してください。その3人が出会い、なぜクジラを見に行くことにしたのか。クジラを見に行くことに何の意味があるのか。結局【人を救えるのは人しかいない】ということを強く訴え感じさせてくれる、力強い一冊です。必読です。
評価:



(満点!)