幼い頃から吃音というコンプレックスを抱えたジョージ6世。王位よりも恋を選んだ兄の後即位した彼は、苦労を重ねながらも妻エリザベスとスピーチ矯正の専門家ライオネルに支えられ、吃音を克服し王の責務であるスピーチに挑む。
悪役の多いヘレナ・ボナム・カーターがいい人役(妻のエリザベス)、というだけでもう新鮮。映画はものすごく王室に好意的に作られており、ジョージ6世も王妃もものすごく気さくないい人、として描かれています。でもそれって本当?(笑)
幼い頃のエリザベス2世が可愛いですね。
王位を継ぎすぐにそれを放り出す兄と、弟ジョージの苦悩が描かれていて、実に人間的、王位継承も一家族の問題なわけ。この王室に対する考え方も姿勢も日本と全然違うなと思い、興味深いです。
評価:(5つ満点)
友もなく女もなく1杯のコップ酒を心の慰めにその日暮らしの港湾労働で生計を立てている19歳の貫太。或る日彼の生活に変化が訪れるが。芥川賞受賞。『新潮』 掲載をまとめて単行本化。
(西村賢太)1967年東京都生まれ。『暗渠の宿』 で野間文芸新人賞、本作で芥川賞を受賞。著書に 『どうで死ぬ身の一踊り』 。
(収録作品)苦役列車/落ちぶれて袖に涙のふりかかる
ダブル芥川賞のうちの1作。私小説、ということでかなり悲壮感漂うハードな内容では、と覚悟して臨んだのですが、思っていたよりずっとソフトな内容でした。ちょっと拍子抜け?
主人公 貫太はまさに著者 西村氏の化身で、ひたすらに西村氏は私小説にこだわっているそうです。人とコミュニケーションがとれず、それゆえにずっと孤独である貫太。同情したいようなしたくないような。その微妙な描き方はやっぱり巧いと思います。
次回作もきっと、読みます。
評価:(5つ満点)
大手証券会社勤務からホームレスに転落した男。段ボールハウスの設置場所を求めて辿りついた公園で出会ったのは、怪しい辻占い師と若い美形のホームレス。世間の端に追いやられた3人が手を組み、究極の逆襲が始まった。3人が立ち上げた新興宗教は設計図どおりに順調に発展する。ホームレス生活からの劇的な生還、だが不協和音が響き始め…。
(荻原浩)1956年埼玉県生まれ。成城大学卒業。『オロロ畑でつかまえて』 小説すばる新人賞、『明日の記憶』 で山本周五郎賞を受賞。主な著書に 『押入れのちよ』 『愛しの座敷わらし』 など。
自分が作ったはずの宗教に、周囲が皆夢中になっていく。真実ではないものが真実になってしまった時。某宗教団体を彷彿とさせる内容は、怖いです。
木島が宗教団体 『大地の会』 の仕組みを考え、仲村を教祖に仕立て、文才のある龍斉に教義と出版本を執筆させ…と大地の会が徐々に 『成功』 していくさまは本当に見事で面白い。しかし自分が創設した大地の会にやがて追われることになる木島の転落ぶりもまた、衝撃的である。彼自身が自覚し切れていない幼い頃からのトラウマを、元妻の視点を借りて読者に伝えるところも巧いです。
今現在も、この本と同じことが起こっていそうで、明日は我が身かもしれない、と思わせるそのリアリティが怖いです。
評価:(5つ満点)
小学生の親は仕事よりも難しい!ワーキングマザーの陽子は息子の小学校の初めての保護者会でお母さんたちを敵に回してしまう。困惑、当惑、泣き笑い。痛快PTA小説。 『小説すばる』 掲載を単行本化。
(加納朋子)1966年福岡県生まれ。文教大学女子短期大学部卒業。『ななつのこ』 で鮎川哲也賞、『ガラスの麒麟』 で日本推理作家協会賞を受賞。主な著書に 『少年少女飛行倶楽部』 『ぐるぐる猿と歌う鳥』 など。
(収録作品)女は女の敵である/義母義家族は敵である/男もたいがい、敵である/当然夫も敵である/我が子だろうが敵になる/先生が敵である/会長様は敵である
ライトノベル的展開で登場人物らもステレオタイプだし、マンガだと思って読むと結構楽しめます。あまたある学校PTA、子ども会、自治会の活動をちょっと(かなり)デフォルメしたらこんな感じかなぁ、主人公 陽子もマスコミ人とはいえエキセントリック過ぎるし。そこがまた面白いんだけど。
資料作成も得意で気のいい沢さんが4人もの要介護親を抱えていたり、ヤンキーシングルママの五十嵐さんが実はいい人だったり、ロリコン教師に盗癖のある母親、そして陽子本人にも重大な秘密が、とワイドショー並みのバラエティぶりはちょっとやりすぎな気はしないでもないけど。でもPTA活動を通じて陽子は信念を曲げることなく、よりよい活動を提案していこう、という展開は好感が持てますね。ラスト、陽子にみんながアンタ市議とかになったら?と言ってますが、本当にこういうアグレッシブな人が政治家ならいいんですけどね。
あとがきに 『決してPTA活動を揶揄しているのではない』 とあり、そこが一番読者に対して心配だったのでしょうね。ラストの 『七人の敵がいる、されど八人の仲間あり。』 でまとまったかな。かつての敵から仲間になった人もいて、陽子の人徳?すごいです。
評価:(5つ満点)