1995年3月20日それは何の変哲もない朝だった。変装した5人の男が傘の先を奇妙な液体の入ったビニールに突き立てるまでは。地下鉄サリン事件の被害者へのインタビューをまとめたノンフィクション。巻末に村上のエッセイ掲載。
(村上春樹)1949年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。ジャズ喫茶の経営を経て作家へ。『風の歌を聴け』 で群像新人文学賞、『羊をめぐる冒険』で野間文芸新人賞、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』で谷崎潤一郎賞、『ねじまき鳥クロニクル』で読売文学賞、『約束された場所で―underground 2』で桑原武夫学芸賞を受賞。また朝日賞、早稲田大学坪内逍遥大賞、フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、世界幻想文学大賞、エルサレム賞などの海外の文学賞を受賞。翻訳多数。
読了までにずいぶん時間がかかった、3週間位。事実の列挙、というドキュメンタリーというものがこんなに読むのが辛いとは。ノンフィクションルポライターなんてこれをずーっとやっているわけでしょう、私ならとても耐えられない。
誰もが、私が、家族が、自分の子ども達が、遭うかもしれなかった地下鉄サリン事件。インタビュイーの一人が
『自分はサリンの被害者ではなく経験者だと思うようにしている』
との一言が、ずしんと来た。
被害に遭った、と思っているうちは加害者への憤りを決して収めることができない。多くの方々がオウムへの怒りを口にする中で、同じ位の人数の方々が 『何とも思っていない』 と口にする事実。村上氏は、事件は決して加害者、被害者だけの問題ではないと訴えている。あれから14年、この本が出版されてから12年。1Q84を読んだ人々のうち一人でも多くの方がこちらを併読してもらえれば、事件について再考する人が増えるだろうか。
非常にただ、重い、思い。それを受け止めようと努力した村上氏には本当に頭が下がる思いです。
評価:(5つ満点)
天下無敵の妄想体質作家 三浦しをんがインターネット上で2年弱書き続けた、ビロウな話ばかりのブログを単行本化。著者自身による脚注と書き下ろしも収録。
(三浦しをん)1976年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。『まほろ駅前多田便利軒』 で直木賞受賞。主な著書に 『風が強く吹いている』 『光』 『三四郎はそれから門を出た』 など。
三浦しをんのブログの単行本化。とある書評にあった通り前半はつまらないです…多分しをんちゃんブログに慣れていなかったようです。でもだんだん乗ってきます、コミケに行った話、ホコリの舞う(つまり掃除していない)火宅の様子、そこに溢れるBL関連書籍の山。いくらしをんちゃんが好きでもしをんちゃんオススメのBL本にはちょっと手が伸びないなぁ…読めないなぁ(すみません)。
しかししをんちゃんの趣味は幅広く、美大か音大に入ってはぐちゃんかのだめちゃんのような暮らしをしたい とか、アイシールド21を読み出したら止まらなくなった とか、錬金術は等価交換が原則だろう! とか、あーこうした内容が理解できてしまう私もやはり相当ヤバイのかもしれない(笑)。
しをんちゃんファンのための本ですのでファンでない方にはオススメしませんが、ちょっと立ち読みしてみてじこの暴走ぶりに行けそうなら、ぜひアナタもご一読ください。
評価:(5つ満点)
ロンドンで3人の死喰い人が橋などを破壊しマグルの世界を恐怖に陥れていた。徐々に不穏な空気が流れる魔法界。ホグワーツに加わった新しいスラグホーン教授はヴォルデモートに関する秘密を知っているらしい。ハリーはダンブルドアの依頼で彼からその秘密を聞き出そうとするが。ハリーポッターシリーズ6作目。
ハリー達も思春期を迎えてホグワーツも恋の花盛り、の割には忍び寄る悪の気配に押しつぶされ全体的にダークすぎる色合い。楽しいホグワーツのシーンもこれで見納めだと思うとやはり悲しい。ハリーもロンもハーマイオニーもすっかり大人になっちゃって、それもまた寂しかったり。
あまりにダークなため楽しいはずのクィディッチやパーティのシーンもイマイチ盛り上がらず、謎のプリンスという存在もイマイチ盛り上がらず。今回もよくこの短い時間に原作のたくさんのエピソードを盛り込んだなと感心はするけれど、ベラトリックスが恐くて存在感アリアリなだけで、他のところはあまり見るべきところもなく。明るく楽しいシーンがほとんどないのがこんなにつらい。6作目でこうなら最終作はどうなるやら?うーん。
評価:(原作が暗すぎるのが敗因か)
イタリアで働いていた娘が妊娠し帰国する。娘のお腹に宿る赤ん坊はどこから来たのだろう。ある日突然娘の体内から不気味な声が語りかけてくる。イタリア語で海を意味するイルマーレと名乗る声の主はいったい何者なのか?生命の誕生と進化の神秘に迫る。
(村田喜代子)1945年福岡県生まれ。『鍋の中』 で芥川賞、『白い山』 で女流文学賞、『真夜中の自転車』 で平林たい子賞、『龍秘御天歌』 で芸術選奨文部大臣賞を受賞。2007年紫綬褒章受章。主な著書に 『雲南の妻』 『蕨野行』 『十二のトイレ』 など。
生命の進化の歴史?ですかねこのテーマは。イタリア在住中に妊娠し帰国してきた娘、無職のイタリア男の婿付き。それだけでも頭を抱えるようなことなのに、同じく娘夫婦に対して不機嫌ながらも同居のため家のリフォームに嬉々としている夫にもやはりイライラする、初老のマサヨの独り語りで、ある日突然娘のお腹の中の赤ん坊がその前世の記憶をマサヨに語りかけてくるという物語。
妊娠って確かに異形な感覚かもしれない。娘がこれまで良く見知っていた娘ではなくなり更にその娘の中に悪魔が巣食っているような。マサヨの妄想と言えばそれまでかもしれないけど自らについて種の進化から語りかけてくる悪魔はあまりに生真面目で滑稽で、横柄ながら憎めない存在です。
終盤赤ちゃんはついに生まれますが、生まれたと同時にあのおぞましい悪魔の声はマサヨには聞こえなくなるのかと思うと、マサヨ同様少し残念に思えてしまう、なんとも不思議な感覚の物語。装丁もなかなかですね。
評価:(5つ満点)
まあちゃんは元気な女の子。仲良しのみいちゃんはあちゃんといつも一緒。今日は二人におかあさんが作ってくれたすてきなエプロンをみせてあげなくっちゃ。まあちゃんが歩いて行くと…。『まあちゃんのながいかみ』 『まあちゃんのまほう』 に続くまあちゃんシリーズ3作目。
(高楼方子)たかどのほうこ。1955年北海道函館市生まれ。東京女子大学卒業。『いたずらおばあさん』『へんてこもりにいこうよ』 で路傍の石幼少年文学賞、『十一月の扉』で産経児童出版文化賞フジテレビ賞、『わたしたちの帽子』で赤い鳥文学賞、小学館児童出版文化賞、『おともださにナリマ小』で産経児童出版文化賞を受賞。主な著作にまあちゃんシリーズ、つんつくせんせいシリーズがある。
まあちゃんシリーズ3作目。セット販売の特装版としてしかハードカバーになっていないのでずーっと見たいと思いながらも見ることができませんでした。なんと帰省先のT町図書館にて発見!喜び勇んで母のカードで借りてもらいました、長年待ち望んでいた出会いだったのですが…。正直内容はまあ普通かな。ちょっと絵が細かいので読み聞かせには若干不向きですね。
おかあさんが作ってくれたすてきなエプロン、ポケットが3つついていてそれぞれにハンカチが入っています。それを見た動物達はまあちゃんの気をそらしてハンカチを盗みどりしてしまうのですが…。まあちゃんがポケットを見てみたらちゃんと動物達からのお礼が入っていたというお話。まあちゃんは喜び、ハンカチを手に入れた動物達も喜んでいて、まあめでたしめでたし…なのかな?
まあちゃんシリーズでは 『まあちゃんのながいかみ』 が秀逸で、2作目 『まあちゃんのまほう』 はちょっとイマイチなのですが、この3作目もちょっと…かな?ながいかみで見せてくれたまあちゃんの豪傑ぶりがないというか。もっと大胆なまあちゃんがみたいですね。というのも大人の勝手な見方かな。大胆な女の子まあちゃんシリーズ、オススメです。
◆まあちゃんシリーズ1作目
仲良しのみいちゃんはあちゃんは髪の長いのが自慢。まあちゃんの髪はおかっぱ。でもまあちゃんももっと、ずっと伸ばすんだから!長く長くなったまあちゃんの髪、その長いことといったら…。
◆まあちゃんシリーズ2作目
まあちゃんの魔法でおかあさんがたぬきになってしまいます。でもすぐに元に戻ってまあちゃんとたっぷり遊んでくれるおかあさんに。ところがそこへもう1人のおかあさんがやってきた!
評価:(3冊併せてオススメ)
心配症の芭子と能天気な綾香。一回りも年の違う仲の良い友人である2人には、他人に言えない過去があった。恋愛には懲りたはずの芭子に今回淡い出会いが。世間の目に怯えつつもいつかは自分たちも陽のあたる場所で生きて行きたいと人生を模索する日々。刑務所帰りの2人を描く 『いつか陽のあたる場所で』 続編。yomyom11号掲載。
(乃南アサ)のなみあさ。1960年東京都生まれ。早稲田大学中退。広告代理店勤務等を経て作家活動に入る。『幸福な朝食』 で日本推理サスペンス大賞優秀作、『凍える牙』 で直木賞を受賞。主な著書に 『涙』 『鍵』 『しゃぼん玉』 など。
おなじみ芭子と綾香、ムショ帰り二人組の続編。毎回yomyomが発売されるたびに掲載されていないか楽しみにしているシリーズです。
今回は最初からネタバレで恐縮ですが、ハムの人の良心が描かれている初めての作品のような気がします。世間におびえ過去を隠して暮らす芭子と綾香に優しく接してくれる謎の人。それはハムの人だったのだ!お金のない二人に奢ってくれ、ささやかな楽しみを提供してくれた彼。世の中まだまだ人情があるということをハムの人に教わるとは…芭子と綾香じゃなくてもビックリですが、本当はハムの人も優しい人がいるのかもね。
今回もおとぼけ警官、高木聖大が大活躍です(笑)。
評価:(5つ満点)
21世紀半ばスラム化にむしばまれていた東京。TVネットワークという大資本により生まれ変わった東京にメディアを通じた扇情的な連続殺人事件が発生。ある出来事がきっかけで東京を去り引退を決意していた私立探偵のヨヨギケンは、旧知の作家から妻の護衛を依頼され、TVネットワークが支配する東京湾の人工島に乗り込むが。『B・D・T 掟の街』続編。
(大沢在昌)1956年名古屋市生まれ。慶応義塾大学法学部中退。『感傷の街角』 で小説推理新人賞を受賞しデビュー。『深夜曲馬団』 で日本冒険小説協会最優秀短編賞、 『新宿鮫』 で日本推理作家協会賞長篇賞、吉川英治文学新人賞、「新宿鮫 無間人形」で第110回直木賞、 『心では重すぎる』 で日本冒険小説協会大賞、『パンドラ・アイランド』 で柴田錬三郎賞を受賞。
近未来ファンタジー、大沢先生お得意のパターン。近い将来私達はTV(インターネット)に洗脳される日が来るだろう…というストーリー。情報を制する者が帝王として君臨する、たとえ自分の意思で手足を動かすことすらままならなくても彼は帝王なのだ!
決められた枠内で生きるのは楽だ、だがそれは自由とは言わない。という大沢先生の強いメッセージを感じました。インターネットに頼りがちの現代人に向けた、エンタメという形式をとった警告ですね。やや設定が突飛過ぎる場面が多いような気もしますが、それはエンタメということでいいかと私は思います。なお前作 『B・D・T 掟の街』 未読なので、こちらも近いうちに読まなきゃ。BDTとは作中の造語で 『Boiled Down Town』 煮詰まった暗黒街?というような意味でしょうかね?
評価:(5つ満点)