1984年東京。スポーツインストラクターでありながら裏の顔を持つ青豆(あおまめ)と予備校で数学の講師をしながら小説家を目指す天吾。それぞれが孤独を抱えながらも交わらない世界に生きていたはずの2人が再び交わる時、世界は変化を遂げる。『こうであったかもしれない』 過去がその暗い鏡に浮かび上がらせるのは 『そうではなかったかもしれない』 現在の姿だ。書き下ろし。
(村上春樹)1949年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。ジャズ喫茶の経営を経て作家へ。1987年 『ノルウェイの森』 のベストセラーをきっかけにブームが起き現在も国民的支持を集める作家の1人。国内のみならず海外の多数の文学賞も受賞、ノーベル文学賞の有力候補と見なされている。『風の歌を聴け』 で群像新人文学賞、『羊をめぐる冒険』で野間文芸新人賞、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』で谷崎潤一郎賞、『ねじまき鳥クロニクル』で読売文学賞、『約束された場所で―underground 2』で桑原武夫学芸賞を受賞。また朝日賞、早稲田大学坪内逍遥大賞、フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、世界幻想文学大賞、エルサレム賞などの海外の文学賞を受賞。翻訳多数。
村上春樹の長編を初めて読みました。ブームに乗ったのか?と思われるとちょっと心外なので言い訳をしますと、母が村上春樹ファンなのでまずこの本を買って母に送りました。私は母が読み終わったら貸してもらおうと思ったわけです。ところが母に買ったその直後位に珍しく夫がこの本を買ってきてくれて私にくれました。本など読まぬ夫は内容も全く知らず買ってきたようでちょっとおかしかったですが…。ともあれ手元に来たので読まないと。ということで私の 『1Q84』 が始まったわけです。
一言で言って(言えないですが) 『目に見えていることが真実とは限らない』 という物語です。真実とは何か。これは正義とは何か、ということとも通じます。真実とはその人自身の判断によってしか存在し得ないものなのだ。だから月が空に2つ浮かんでいようがそれが見えている真実ならば、それが世界の真実だということなのだ。という物語です。
は?ますます意味不明?そうですね…私も書いててちょっと意味不明です。しかし世界とは人の集合体であり、人が皆ひとりひとり考えが違うようにその世界に対する考えも異なり、その結果世界は様々な形で存在しているのだろうということなのです。え?またドツボにはまってないかって?そうですね…。
他の方々の書評を見ているとますます分からなくなりそうなのでとりあえず今はまだあまり読まないようにしていますが、もちろんこの本で村上氏が言いたいのは狂信団体の擁護でもないし、詐欺行為の擁護でもないし、正義を振りかざして殺人を行う行為への擁護でも、いずれでもありません。それは言わずもがなです。ただ真実とは人の数だけあり、世界の在り方も同様に人の数だけある。その中で私達がどこまで、どれだけ、お互いを認め合い共に生きていく努力をし続けなければならないか。その努力は決して終わることはない、ということを村上氏は言っているのだと私は思っています。人の世界(観)を否定する権利など誰にもないのだ、ということなのです。
日本語が読める日本人であるならばやはり読まないと、村上春樹。と思いました。青豆と天吾を結ぶ、ふかえりという少女の存在。彼女の存在を疎ましく思うか愛しく思うか、が読了感の分かれ目でしょうか。Book 2(下巻)で完結とも未完とも取れる本作、私個人としては続巻を期待しています。
評価:(5つ満点)
39歳、男は妻から妊娠を告げられた。それがすべての始まりだった。結婚して12年目の2007年、調査会社管理職の俺の妻が他の男の子どもを宿す物語。2035年、小さなプロレス団体に所属する無敵の王者アムンゼン・スコットの戦いの物語。二つの物語が優しく響き合う。
(西加奈子)1977年テヘラン生まれ大阪育ち。関西大学法学部卒業。『通天閣』 で織田作之助賞受賞。主な著書に 『あおい』 『さくら』 『きいろいゾウ』 『きりこについて』 など。
純文学、ですね。この感覚久々な感じ。2007年と交互に挿入される2039年の描写が最初は訳分からんなのですが、だんだんとその関連性が見えてきます。社会とはすなわち人と人との距離感のこと、それをうまく取れる人と取れない人がいること、それは当たり前のことなのだということを教えてくれます。ラスト、2007年でずっと苦悩してきた(も端から見ると笑ってしまう)主人公が、2039年のプロレスのシーンで救われていることを読者が知る、西加奈子のこの優しさがいいなぁと思うのです。
ちなみにいきなり西加奈子なのは、母が西加奈子が好きだと言ったので。私と全く読む本の趣味が異なる母との読書談話はどこまで行けるでしょうか。
評価:(5つ満点)
彼は小説に命を懸けると何度も言った。小説は悪魔かそれとも作家が悪魔なのか?恋愛の抹殺を描く小説家の荒涼たる魂の遍路。本当に恐ろしいものは人の内側にあるのだろうか、人の内面を描こうとする作家の断罪を描く。
(桐野夏生)1951年金沢市生まれ。成蹊大学卒業。『顔に降りかかる雨』 で江戸川乱歩賞、『OUT』 で日本推理作家協会賞、『柔らかな頬』 で直木賞、『グロテスク』 で泉鏡花文学賞、『残虐記』 で柴田錬三郎賞、『魂萌え!』 で婦人公論文芸賞、『東京島』 で谷崎潤一郎賞を受賞。 また 『OUT』 で日本人初のエドガー賞候補となる。
正直桐野著 『OUT』 とは全く無関係な話で、表紙は似せるは題に含みを持たせるわ、ちょっとその話題で引っ張りすぎでは?(笑)主人公の孤独感ばかり、それも一方的な思いばかりが前面に出ておりますが、人ってこういう風に自分のことしか見えないもんだよな。と納得させられてしまうのはやはり桐野氏の技量ですね。同じく女の身勝手を描いた角田光代 『森に眠る魚』 とは同じ★3でも読了感が全く違います。
桐野氏に言わせれば愛情すらもそれは身勝手なもの、人の内側(inside)のもの、ということなのでしょうか。
評価:(5つ満点)
本当に長年。この本の復刊を待ち望んでいました。
実家に本がないかどうか問い合わせたり、古書店のサイトを見たり…図書館で借りたり。でもやっぱり手許に欲しい一冊!それがついに文庫版で復刊!の情報を見てすぐその場で本屋に電話→取り置きしてもらいました。20:00過ぎにいつも突然でスミマセン本屋さん。
世界を旅してきたお父さんの冒険譚は実はラッパ話(ホラ話)なのですが、各国の文化を踏まえた物語は本当にお父さんがそこで生き生きと過ごした様子が伝わってきて、一緒に世界各国へ旅ができます。14話構成、一話が適度な長さで一話ずつの語り聞かせにも適。さらに堀内誠一氏の挿画が底本そのまま、カラー多彩!文句のつけどころのない仕上がりです。
復刊、バンザイ!
評価:(満点!)
若者たちで賑わう東京台場で1人の外国人が倒れる。病名不明のまま間もなく死亡する男。これは細菌テロの序章なのか。公安、内閣調査室が動き出す。所轄署としての責務を負わされたベイエリア分署安積班のテロとの攻防を描く。シリーズ長篇書き下ろし。
(今野敏)1955年北海道生まれ。上智大学卒業。『怪物が街にやってくる』 で問題小説新人賞を受賞しデビュー。『隠蔽捜査』 で吉川英治文学新人賞、『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を受賞。TBSドラマ 『ハンチョウ~神南署安積班~』 の原作シリーズなど著書多数。
安積班長を初めて読みました。交機の速水とのやりとりと言い、ちょっとハンチョウってスマート過ぎかな。もっと人間味が欲しいけど。所轄内で細菌テロが起こる…という展開なのですが、公安、内調と入り交じり、その中でハンチョウチームが色々と苦難を強いられる様子を描いてます。どこへ行ってもハムの人達は嫌われ者ねぇ。ラストの大ドンデンもなかなかにやりますな。このひっくり返し方が今野流です。
半夏生というタイトルとそれにまつわる登場人物のセリフが、季節を感じさせて非常にさわやかでいいです。
評価:(5つ満点)
東京の文教地区の町で出会った5人の母親。年齢も環境も違う彼女らは育児を通じて次第にに心を許しあうが、子どもの進学先を巡りいつしかその関係性は変容していく。母親たちの深い孤独と痛みをあぶりだした母子小説。
(角田光代)1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。『幸福な遊戯』 で海燕新人文学賞、『まどろむ夜のUFO』 で野間文芸新人賞、『ぼくはきみのおにいさん』 で坪田譲治文学賞、『キッドナップ・ツアー』 で産経児童出版文化賞フジテレビ賞、路傍の石文学賞、『空中庭園』 で婦人公論文芸賞、『対岸の彼女』 で直木賞、『八日目の蟬』 で中央公論文芸賞を受賞。
文京区音羽のお受験殺人事件がモチーフ。あれもかなり異常な事件だった。何年経ったのだろう?角田氏が設定した個性溢れる主婦達はそれぞれに面白いが、こんな個性ならいらんわ。と思ってしまう人達ばかりだった(苦笑)。あまりにも考え方が自己中心的過ぎる。現代人は皆そうだと言いたいのかもしれないが、決してそうじゃないと私は思っている。
彼女らは1人として本当の友達を持ってない、それは本当の友として付き合おうとしないからだ。子育てする前に社会性を学びたまえ!と声を大にして言いたい(私に言われたかないだろうが…)。というか、20、30歳を過ぎて子育てもする年齢になって、未だ社会性のなさ過ぎる人が多すぎる、ということを描きたかったのだろうか?
それにしてもこの物語はここまで来たらもう狂気ですね、子育てに狂気を持ち込まないで欲しいわ。ラストも救いがなく、角田さんこれはキツイなーと思ってしまいました。
評価:(5つ満点)