緑溢れる武蔵野に老いた犬と住むライターの棚。アフリカ取材の話が来た頃から不思議な符合が起こりはじめる。彼女が訪れた先のアフリカで見つけたものとは。物語が人を生かす物語。ちくま連載を単行本化。
(梨木香歩)1959年生まれ。児童文学者のボーエンに師事。 『西の魔女が死んだ』 で日本児童文学者協会新人賞、『裏庭』 で児童文学ファンタジー大賞を受賞。主な著書に『からくりからくさ』 『エンジェルエンジェルエンジェル』 『村田エフェンディ滞土録』 『春になったら苺を摘みに』 、絵本に 『ペンキや』 『マジョモリ』 『ワニ』 『蟹塚縁起』 など。
舞台はアフリカ、ナイロビというはるかな地であるのに、少しも遠さを感じないのはなぜでしょうか。主人公 棚の気持ちがそのまま日本につながっているからでしょうか。正直もっとアフリカらしさ、異郷らしさを期待して読み始めたのですが、案外本当にアフリカの地を訪れても同じ地球上、大した違いはないのかもしれませんね。
内戦やゲリラ、呪術医などが出てきて異郷であるにも関わらず、そこで棚が出会う人の縁、について棚本人はいたっ非常に変冷静なのです。それは 『からくりからくさ』 はじめ梨木氏の描く小説の主人公はみんなそうであるので、それはそれで梨木カラーということでいいのかな、とも思うのですが、棚の冷静ぶりには本当に驚きます。それがやはり受容、ということでしょうか。
テーマは 『死者には物語がある』 だと感じました。梨木文学はこのところ特に 『物語があること』 を意識しているように感じます。不思議な感覚のする小説です。
評価:(5つ満点)
美人プロデューサーから依頼された愛と感動の裁判映画の脚本を書くため、三流ライターのタモツは生まれて初めて裁判所に足を踏みいれる。トンデモ事件の傍聴を繰り返すうちに傍聴マニアらと親しくなり、マニアのアイドル美人検事マリリンともお近づきになるチャンスが。マリリンに人の裁判をおもしろがっているだけだとなじられたタモツは傍聴マニアらと共にある冤罪事件を支援することとなるが。原作 北尾トロ。主題歌 バービーボーイズ 『ごめんなさい』 。
トロさんのファンである私は行きましたよ。バナナマンの活躍する映画です(笑)。バービーボーイズの歌も懐かしく、嬉しいです。正直映画というよりTVの2時間ドラマみたいな感じなのですが、それはそれでいいと思います。トロさんが傍聴をする理由として挙げているのは
傍聴により裁判が密室で行われないよう、監視する。裁判に関わる検察、弁護人、そして裁判官が裁判に対して手ヌキしないよう、抑制力となる。
なのだそうです。そのテーマがしっかり盛り込まれた作品に仕上がっています。もちろんそれだけではなく、途中からタモツが巻き込まれる冤罪事件の支援、このラストの展開がまたいいですね!最後に爆笑してしまう映画に仕上がってます。
裁判に興味のある方はもちろん、裁判なんて縁がないと思っているとある日突然裁判所に呼び出されないとも限らない今のこの時代、ぜひ一度見てくださいね。
評価:(5つ満点)
2011年のクリスマスイブにハワイの海底でグレゴリオ聖歌を正確に繰り返し歌うザトウクジラが発見された。そして1000年後の日本では階級化格差が完全に進み人々は違う格差同士の交流は全くない社会で暮らしている。極端に合理化が進み敬語を使う人間がいなくなる中、最下層に属しながらも正しい敬語を操る 『敬語使い』 である少年は、不老不死の遺伝子を巡り階層を奪取する旅を始める。毎日芸術賞受賞。群像連載を単行本化。
(村上龍)1952年長崎県生まれ。武蔵野美術大学中退。 『限りなく透明に近いブルー』 で群像新人賞、芥川賞、『コインロッカー・ベイビーズ』 で野間文芸新人賞、 『村上龍映画小説集』 で平林たい子文学賞、『インザ・ミソスープ』 で読売文学賞小説賞、『共生虫』 で谷崎潤一郎賞受賞。主な著書に 『69 sixty nine』 『ラッフルズホテル』 『トパーズ』 『5分後の世界』 『半島を出よ』 など。
半島を出よ、から早数年。待ちに待った(ということでもないが)村上龍氏の新作は、またしても問題作です(笑)。
見事に未来の格差社会を描き切った村上氏の潔さに、まず拍手です。格差の行き着くところはこういう社会か…とぞっとしてきます。最初は 『敬語使い』 がキーワードなのかと思いきや、途中から展開がドンドン裏切られていくので読了直後は何なんだよーと思ったのですが、後から考えてみると段々と納得してきました。何よりも 『歌うクジラ』 そのものの存在の裏切り方が、もう巧いです。
未来社会は実に複雑に5層位の生活層にカッチリ分かれています。隔離されGPSを体内に搭載された性犯罪者の暮らす最下層、 『風呂』 が唯一の娯楽だという下層 、ひたすら機械のように交代勤務を繰り返し経済食である 『棒食』 (イメージとしてうまい棒?)を食べ続ける中間層、政治・経済一切の世界の管理を行う上層、そしてひたすらに娯楽だけを追求し 『死なない(死ねない)生命維持システム』 によって生かされ続ける最上層。この各層を主人公の少年と共に縦断する旅は、幻滅もし、さもありなんと納得もしつつ、それぞれの世界を観終わった後ははーっとため息をつくほどでした。
途中あちこち 『こんなに社会を揶揄しちゃって村上さんだいじょうぶう…』 と心配になるほど、過激なところも多々あって誠に刺激的です。そしてラスト、人類の行きつく果ては 『歌うクジラ遺伝子』 なのか、本当に?
希望の感じられるラストでようやくちょっと救われた気持ちになりました、大人の方はぜひご一読を。
評価:(5つ満点)