医大を卒業したての研修医 相馬が田舎の村に研修医として赴任する。田舎の医療に戸惑いながらも村中の人々から神さま仏さまよりも頼りにされている医師 伊野の働きぶりにやがて共感を覚えるようになる相馬。ある時村の未亡人が病に倒れる。医師の娘を持つ彼女が願う嘘を伊野が引き受けることを決めた時、同時に伊野自身がひた隠しにしてきた大きな嘘が同時に浮かび上がってきて。西川美和監督作品。
絶賛。これぞ映画。間違いなく今年一番の映画はこれです。
俳優一人ひとりの存在感が素晴らしい、八千草薫、井川遥、そして 余貴美子 は今回ももう必見、必ず観るべし。
もちろん主演 鶴瓶さんもとてもいいのですが、今回も脇を固める人々が素晴らしく、瑛太も初めていい俳優だと分かりました。若手イケメン系ならオダジョーか瑛太だな。そして本作でもやはり 香川照之、申し分ありません。ちょっと毒のある役を今回も見事にこなしています。
ラスト直後はハッピーエンドか?と思いましたがよくよく考えてみたら逆なのでは…あのラストシーンはもしかして怖いんじゃ?と思ったら本当に怖くなってきました。この余韻がやはり、西川美和監督です。
間違いなく今年ナンバー1の映画です。
評価:(必見!)
学校じゃ学べない社会の本当を語ろう。日本を代表する社会学者が、自分と他人、こころとからだ、本物とニセ物、など社会学の最先端の知識をふんだんに盛りこみ解説。社会学の基礎を学ぶ中高生はもちろん大人にも。
(宮台真司)1959年仙台市生まれ。東京大学大学院院人文科学研究科修了。社会学博士、首都大学東京教授。社会システム理論専攻。主な著書に 『権力の予期理論』 『終わりなき日常を生きろ』 など。
私はこの世の中で一番難しい学問の一つが社会学ではないかと思っています。社会、すなわち私達が生きている今この世の中を論じる学問なんて。簡単そうに見えて一番難しいのでは。誰もが社会すなわち他者との関わりを無視して生きることができない現代において、中学生を対象に社会を論じることの大切さ、難しさをつくづく感じます。というか中学生でなくとも十分社会と自分の関わりを意識しそれについて真っ向立ち向かうのは困難なことなのだと今更ながら感じます。
社会学者としての宮台氏は、その過激な発言でも有名ですが、そうした先入観を抜きにしても社会そのものを常に考え、論じ、その方向性を見いだそうと常に模索してる氏の姿勢には、やはり見習うべきものが多くあります。 『誰もがエリートを目指さなくてはならない日本社会の在り方は間違っている』 『一部のエリートが社会構造を考え、人々を牽引する力と立場を持つべきだ』 という主張、ここだけ見るとファシズムを感じますが、実際のところこれは核心を突いているのではないでしょうか。
誰もが、すべての学校の科目において優秀な成績を修めなくては評価されない、現在の教育システム。個性個性と口では言いながら実際には全員に同じ学習をさせ、同じ成果を求める義務教育の在り方。果たしてそれでよいのでしょうか?もちろん一律に、平等に教育を施すことは理想ですし重要なことですが、そこから外れる子どもを評価しない、その結果疎外しようとする現代の教育システムには、やはり欠陥があると言わざるを得ません。
誰もが属している社会という大きな枠組み。時に自分自身の社会について、考える機会が大人も子どもも必要ですね。
評価:(5つ満点)
冷めると冷えるの違いは? 年齢を書くときは才と歳のどっち? 日本語学校の先生と外国人学生がくりひろげる笑える日本語バトル。日本語学校のカオスな日常をマンガで紹介。
(蛇蔵)イラストレーター兼コピーライター。雑誌やゲームで幅広く活躍中。
(海野凪子)日本語教師、日本語教師養成講座講師。
ダ・ヴィンチで紹介を見てから読んでみたいと思っていた本書、でも思い切って買うには…どうしようかなと思ってたら、いつも行くカレー屋さんで発見!これはラッキーとカレーを食べるのもそこそこに読みふけりました。日本語って奥深いですね。助数詞(数え方)とかまだまだ知らないことがたくさんあります。
主人公の日本語教師が手に入れた外国の教科書にあった会話が非常に面白いです。
『すてきなお召し物ですね』 『いえ、こんなのはぼろでございます』
いつの時代の会話だ!?と突っ込みを入れる主人公。本当に 『ぼろでございます』 って切り返されたらどう答えたらいいの?(笑)
中国の学生さんが大学院への受験依頼を教授宛に手紙で書く練習で、美文調(散文形式)で書いてしまったところとかも爆笑!
『**大学院よ、我にその門戸を開きたまえ』
って手紙来たらどうよ!でも中国の学生さん達はみんな絶賛、やっぱり文化の違いって面白い!
機会があったらぜひ皆様もご一読を。日本語について分かる、というよりこんなに日本語教師って面白い経験してます、というお話ですね。続編も刊行予定のようです。
評価:(5つ満点)
11ぴきのねこの父
絵本作家馬場のぼる氏の経歴を初めて一堂に集めた展示。かつて漫画家だった馬場氏、子ども向け大人向けの漫画の執筆数は相当数にのぼります。それらのコピーを手にとって見られる今回の展示企画はすっごくいいですね。
原画の発色もやはり素晴らしく、本物を見る喜びを味わってきました。特にアラビアンナイトシリーズの美しいこと、アラビア模様の細かさ、その色合い。そしてやはり、ネコ達の絵の愛らしいこと。
展示内容は大人向けだったので、私一人で来てゆっくり観られてよかったです。土日のワークショップは活動的でドラマリーディング(朗読劇)もできたら観たかったですね。平日でも学芸員の解説(ギャラリートーク)をやってくれないかなぁ。久々に高い図録を買ってきました、馬場氏の活動が時系列で整理してあるほかマンガ作品も数点掲載されていて結構お買い得。
今回は県立美術館まで電車で行きましたが1時間に1本しかないバスをうまく乗り次いで効率よく行けました。せめてうちからもうちょっと近ければ嬉しいけどね。
11ぴきのねこが歩く館内と天井から下がるマンガ(コピー)
昨日小学校を卒業して今日から春休み。でもなんだか私の頭はもやもや。隣の家との争いが原因で家の中もぎくしゃくしている。ある日私はもう家に帰らないで捨てられた古いバスのなかで暮らすことを決めた。 中学生になったばかりの少女の心の葛藤を描く。
(湯本香樹実)ゆもとかずみ。1959年東京都生まれ。東京音楽大学卒業。オペラの台本執筆からテレビ、ラジオの脚本家を経て小説家に。『夏の庭 The Friends』で日本児童文学者協会新人賞、児童文芸新人賞を受賞。十数ヶ国で翻訳出版され、ボストン・グローブ ホーン・ブック賞、ミルドレッド・バチェルダー賞を受賞。主な作品に 『ポプラの秋』 『西日の町』 など。
電車での小旅行(県立美術館行き)に合わせて、ずいぶん前に買ってあった文庫本をひとまず読破。これはYAですね。正直読了直後はイマイチ印象が薄かった本書なのですが、巻末の角田光代氏の解説ですごーく腑に落ちました、角田氏の解説が素晴らしい、必読です(あれ?)。
思春期特有のイライラ、思い通りにならない自分の周りの世界、大人の憂うつが理解できる年頃でありながら自分は何もできない絶望感。おかあさん、おとうさん、おじいちゃん、そしてノラネコにエサを与え続けるおばさん、という周りにいる大人達。人から見れば子どもの世界は小さな世界に見えても、そこに生きる子ども達にとっては豊かで広がり続ける世界なのかもしれない。
という、お話です。作者湯本氏は音大卒だそうです、なんとなく流れるような音楽的なイメージを感じます。溢れる才能で羨ましいなぁ。
評価:(酒井駒子の装画だとつい買っちゃいます)
懲戒免職になった公安刑事だった同期の蘇我。その直後彼は連続殺人の容疑者として手配される。同期として友人としてその行方を追う宇田川に上層部の圧力がかかる。なぜ蘇我は懲戒免職に、容疑者になってしまったのか。立ちはだかる組織の論理に立ち向かう警察官を描く。『小説現代』掲載を単行本化。
(今野敏)1955年北海道生まれ。上智大学卒業。『怪物が街にやってくる』 で問題小説新人賞を受賞しデビュー。『隠蔽捜査』 で吉川英治文学新人賞、『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を受賞。TBSドラマ 『ハンチョウ~神南署安積班~』 の原作シリーズなど著書多数。
今回もテンポよく、エンタメ度サービス満点です。同期だった公安の蘇我がいきなり懲戒免職になるって…懲戒にすること自体が異例だし誰だって怪しむでしょ。蘇我の行方を追う宇田川が蘇我の元上司に、なぜ蘇我の所在を知りたいのかと聞かれ 『同期ですから』 と答えて上司が一瞬あぜんとするくだり、蘇我は天涯孤独で友人もいないと思われてた(と上司に言っていた)んだろうな、と分かる。ハムの人達のとことん合理主義なところがまた目に付いてしまう。実際今回の事件のようにカモフラージュされていることって結構あるのかなぁ…そしてそれは私達末端(?)の国民には決して見えてこないのでしょうね。
どういう人がハムの人に向いているのか?などと考えてしまいました。このシリーズ続編がありそうな雰囲気だけど、どうかな。
評価:(5つ満点)