18世紀爛熟の時を迎えた水の都ヴェネツィア。『四季』 の作曲家ヴィヴァルディは孤児たちを養育するピエタ慈善院で 『合奏・合唱の娘たち』 を指導していた。ある日ピエタで育った教え子の1人、エミーリアのもとにヴィヴァルディの訃報が届く。
(大島真寿美)1962年愛知県生まれ。南山短期大学卒業。『春の手品師』 で文学界新人賞受賞。主な著書に 『ビターシュガー』 『三人姉妹』 など。
巷ですっごく評判が高い本作ですが、私にはあんまり響かなかったかな。主人公エミーリアの気持ちに最後まで入り込めず、ずっと傍観者だったのでエミーリアが悩むピエタ慈善院の困窮ぶりとか、ピエタに捨てられた子どもだった私、という心許なさ、ピエタへの愛着、すべてあんまり伝わらなかった。なんだかキレイ過ぎる感じ。
貪欲であったのはヴィヴァルディ先生だけで、後の登場人物らは冷めているというかイマイチ情熱に足りない感じ。設定も人物らもそれぞれに趣向をこらしてあるのですが、共感も同情もできず、イマイチ楽しめませんでした。残念。
評価:(5つ満点)
葉山の高台にある別荘で幼い日をともに過ごした貴子と永遠子。ある夏、突然断ち切られたふたりの親密な時間が25年後の別荘の解体を前にしてふたたび流れ始める。『新潮』 掲載を単行本化。芥川賞受賞。
(朝吹真理子)1984年東京都生まれ。慶應義塾大学博士課程前期在籍中(近世歌舞伎)。本作で芥川賞、『流跡』 でドゥマゴ文学賞を受賞。
実に爽やかな一冊。きこととわこは仲が悪いのかと思っていたら全然違ってて仲良しだった。しかも歳が結構離れていた。お金持ちのお嬢さまと別荘番の娘の話、というありきたりな関係ながら2人の関係は簡単に言い表せない、不思議な縁で結ばれていた。
長年会っていない人でも、こうして心が通じる時があるのだ、ということ。別荘の解体を通じて懐かしい記憶に浸れただけでも、きこととわこは幸せだったのかもしれない。
しかーし、テーマは不明(笑)。そこが純文学。
評価:(5つ満点)
健康 を基盤とし調和を何よりも尊重する未来社会。人々は互いをいたわり合い思い合う、理想社会。高度医療福祉社会はある衝撃的な事件を機に崩壊の危機に瀕した。WHOの監察者 霧慧トァンは事件の背後にかつて自殺したはずの親友の影を見る。人類社会のの最終局面に立ち会った2人の女性の物語。 日本SF大賞、星雲賞日本長編部門、フィリップ・K・ディック賞特別賞受賞。
(伊藤計劃)いとうけいかく。1974年東京都生まれ。2009年没。武蔵野美術大学卒業。本作で 日本SF大賞、星雲賞日本長編部門、フィリップ・K・ディック賞特別賞受賞。著書に 『虐殺器官』 。
見事なSF。人々が健康を最優先し、他人を尊重しいたわり合うユートピア。そしてそのユートピアを息苦しく感じる少女達。自殺すらできない社会で自殺を図った少女らのうち1人が死に2人は生き残った。生き残った罪悪感を抱えながらトァンは生きていたが、ある日この 『死ねない社会』 で大量の同時自殺が起こる。
というお話。健康は全て体内に埋め込まれた医療マシン、Watch Meによって管理され、誰もが太りすぎず痩せすぎず、お肌は美しく血圧も血糖値もみな正常、という理想社会。そこに反発するトァンの方がおかしいんじゃない?とも言えますが、トァンの立場になってみれば、まさにWatch Meに監視され続ける一生なんて、まっぴら。このWatch Meって名称もすごくセンスいいですね~ナノ型医療マシン、体内の血管の中をグルグル駆け回り、宿主(だ、まさに)のデータを常に健康管理サーバに送り続ける。ちょっとでも暴飲暴食をしようとすると立ちどころに警告が鳴る。【あなたは、社会の大切な資源なのです。資源はそのよい状態を保つ義務があるのです。】 というのが健康維持の理由。なーるほどー。
しかし争いのない理想社会は、個人の意志のない社会であった。自らの意志決定すらできない社会、食べるものも飲むものも、そして死ぬことさえも。悩みがある、その悩みで苦しいと思える今がありがたいのだなと読了後、実感してしまいました。
SFエンターテイメントでありながら、その辺の純文学よりずっと人類の本質、生きることの本質について説いています。驚愕のラストまでオススメです。
評価:(5つ満点)
人類は突如出現した巨人に絶滅寸前まで追い詰められた。生き残った人々は巨大な城壁を築きその中に閉じこもることで何とか絶滅を免れる。100年後、かりそめの安定は巨大城壁をも超える巨人の出現により破られた。エレンは閉塞的な社会を嫌い城壁の外を目指す少年だったが、5年前の超大型巨人の出現から始まる騒動で母親を亡くし、幼なじみのミカサと共に巨人と戦う兵士を育成する訓練兵団の訓練兵となる。別冊少年マガジンで連載中。
(諫山創)いさやまはじめ。1986年生まれ。大分県立日田林工高等学校卒業。漫画家。『HEART BREAK ONE』 で週刊少年マガジン新人漫画賞特別奨励賞、『orz』 で週刊少年マガジン新人漫画賞入選を受賞、デビュー。本作で講談社漫画賞少年部門を受賞。
ついに、買ってしまいました進撃の巨人。話題作にこうも弱い私ですが、本作は購入までに結構迷いました。だって画が私好みじゃないんですもの…。1、2巻はデッサンも画のラインも粗く、正直まだまだプロのレベルじゃないぞと思いましたが4巻まで出ている現在、だいぶ落ち着いてきました。
このマンガの最大のポイントは、人を喰らう巨人とその巨人から逃れるべく、城塞都市を築いてそこに立てこもる(要するにカゴの鳥)、人類の攻防にあります。100年間守られた平和、というよりたまたま巨人が城壁を越えられない大きさだったため、人類は壁の中でのほほんと暮らしていたのですが、ある日突然壁を越える超巨人が表れる。ネオ・ジェネレーションですな。それで人類は慌てふためくという。
評価:(久々の少年マンガ)
友もなく女もなく1杯のコップ酒を心の慰めにその日暮らしの港湾労働で生計を立てている19歳の貫太。或る日彼の生活に変化が訪れるが。芥川賞受賞。『新潮』 掲載をまとめて単行本化。
(西村賢太)1967年東京都生まれ。『暗渠の宿』 で野間文芸新人賞、本作で芥川賞を受賞。著書に 『どうで死ぬ身の一踊り』 。
(収録作品)苦役列車/落ちぶれて袖に涙のふりかかる
ダブル芥川賞のうちの1作。私小説、ということでかなり悲壮感漂うハードな内容では、と覚悟して臨んだのですが、思っていたよりずっとソフトな内容でした。ちょっと拍子抜け?
主人公 貫太はまさに著者 西村氏の化身で、ひたすらに西村氏は私小説にこだわっているそうです。人とコミュニケーションがとれず、それゆえにずっと孤独である貫太。同情したいようなしたくないような。その微妙な描き方はやっぱり巧いと思います。
次回作もきっと、読みます。
評価:(5つ満点)