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DaisyAKM Archives

読書と映画と観劇と

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わたしを離さないで*カズオ・イシグロ

neverlet.jpg全寮制施設に生まれ育ったキャシーは今は亡き友人との青春の日々を思い返していた。奇妙な授業内容、教師たちの不思議な態度、キャシーたちがたどった数奇で皮肉な運命。彼女の回想は施設の驚くべき真実を明かしていく。1970年代から90年代のイギリスを舞台に描く恐るべき未来の社会。アレックス賞受賞。
(カズオ・イシグロ)1954年長崎県生まれ。5歳の時父親の仕事の関係でイギリスに渡る。ソーシャル・ワーカーとして働きながら執筆活動を開始。著書にブッカー賞受賞作 『日の名残り』 『わたしたちが孤児だったころ』 など。


映画化されたものが素晴らしかったのでやっとこちらも読了しました。映画は若干はしょっているのでぜひ原作を、という声に惹かれて読んだのですが、私はそんなにはしょっているとは思わなかったです。むしろこの複雑な話をよく映画化したと思いました、もう一度映画観たいです。

ただ、映画では勘違いをしていた部分がありました。映画ではキャシーら 『提供者』 の親のことを 『オリジナル』 と言っていたので、てっきり 『提供』 はオリジナルに対してのみ行われるのかと思っていたのです。オリジナルが提供者に対する責任を持つのでその考え方により提供者をより環境のよいヘールシャムなどの優良な寮に入れることができるのかと、思ってました。

原作では 『ポシブル(possible)』 とか 『親(parent)』 と言ってます。親の可能性のある人、という意味です。親はparentsではなく単体のparentです。どういう意味かというと、そういう意味です。

提供者として育てられたキャシーらが芸術を尊ぶヘールシャムという寮で育てられた理由、寮の子ども達の優秀な作品を集めて飾るという施設 『展示館』  の謎、そしてそこにすがりたい提供者らの、切実な想い。一般の人の迎える 『死』 ルース、トミー、そしていずれはキャシーの迎える提供者としての 『死』 の、大きな違い。

臓器移植が進む現代に対する、大変大きな問いかけだと思います。映画もぜひ観ていただきたいです。

評価:(5つ満点)

わたしを離さないで(映画) 2011/6/7
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寒灯*西村賢太

kanto.jpg待望の恋人との同棲生活の始まり。だが2人で迎える初めての正月に貫多は些細な事柄に癇の虫を刺激され暴言を吐いてしまう。2人の新生活にあやうく垂れ込める暗雲の行方は。『新潮』 『東と西2』 掲載を単行本化。
(西村賢太)1967年東京都生まれ。『暗渠の宿』 で野間文芸新人賞、『苦役列車』 で芥川賞を受賞。著書に 『どうで死ぬ身の一踊り』 『人もいない春』 など。


『苦役列車』 続編。前作が結構気に入った私は今回も一気に読みました。貫多…ホントどうしようもない男。しかしこういうコミュニケーション不全な人はやっぱり多く存在すると思うのです。つい他人事と思えないから読んでしまうのか?と自分でもとまどいます(笑)。

秋恵を貫多がいたぶるシリーズもあるそうですが、それはもういいや。文学らしい文学では、あります。

評価:(5つ満点)

緑の毒*桐野夏生

midoridoku.jpg川辺康之。39歳開業医、妻も医者で子どもなし。自由を謳歌できる理想的な暮らしを営む彼は、実は連続レイプ犯だった。嫉妬、妄想、昻奮、そして狂気。川辺はどこへ向かうのか。『野性時代』 『小説野性時代』 掲載を単行本化。
(桐野夏生)1951年金沢市生まれ。成蹊大学卒業。『顔に降りかかる雨』 で江戸川乱歩賞、『OUT』 で日本推理作家協会賞、『柔らかな頬』 で直木賞、『グロテスク』 で泉鏡花文学賞、『残虐記』 で柴田錬三郎賞、『魂萌え!』 で婦人公論文芸賞、『東京島』 で谷崎潤一郎賞、『女神記』 で紫式部文学賞、『ナニカアル』 で島清恋愛文学賞を受賞。 また 『OUT』 で日本人初のエドガー賞候補となる。


久々にミステリ調の群像小説です。登場人物らが次々とつながっていく様子はパズルのようで面白いです。レイプ犯の開業医が主人公の小説、と聞いてどんな恐ろしい内容か…と心配していたので、実際には各章毎に主人公が入れ替わる群像物でちょっとホッとしました。こういう群像物は本当に難しいと思うのですがさすが桐野さん、視点の切替え方がすごいです。男の視点も女の視点も見事に切り替えられてます。

完璧な犯罪計画を立てたはずの川辺が、徐々に追い詰められて行く様子。現代の社会生活に深く深く食い込んでいるインターネットというもう1つの 『社会』 。それらの関連付けも秀逸です。普通関わり合いを持たないアパート在住者同士の集まり 『ピーフラ会』 も興味深いです、思わぬ人と人がつながることで、バラバラだった川辺の犯罪がつながっていく様子、悪は滅びるのだ!というよりやはりこういうことは破綻するようになっているのだとしみじみ思います。

川辺、公立病院勤務医である妻カオル、カオルの不倫相手である救急救命医(つまり医者の花形)玉木、かつて共同経営者で今は故郷の病院を継いでいる(つまりボンボン2代目)野崎、と全員が医者という社会的責務の重い立場にありながらあまりに身勝手、というか考え方が幼稚である様に、今のオトナをよく描いているなぁと感じてしまいました(私もか?)。

【余談】 単行本化にあたり主人公の名前が 『川辺』 に改められたようです。同姓同名とか抗議があったとか?

評価:(5つ満点)

ペルセポリス*サトラピ

persepolis1.jpgpersepolis2.jpgマルジはイラン、テヘラン生まれ。フランス人学校に通ってた自由な子ども時代は突然のイスラム革命で幕を閉じた。続くイランイラク戦争、戦禍を避けてのオーストリア留学。孤独を抱えて帰国すると待っていたのは湾岸戦争。その中で大学進学、結婚そして離婚。激動のイランを生き抜いたマルジのイラストコミック。ハーベイ賞、アレックス賞受賞。
(マルジャン・サトラピ)1969イラン生まれ。14歳のときに国を離れ、ストラスブールでイラストレーションを学ぶ。イラストは世界中の新聞や雑誌に掲載、子ども向けの本も執筆。現在フランス在住。


これは衝撃的なマンガでした。隣町のOR図書館にありますのでぜひ皆様も借りてください。

イランイラク戦争、そして湾岸戦争を本当に体験したマルジの目から見た、戦争下の本当のイラン。現在40歳前後のマルジ、私と同世代です。ゾロアスター教の美しい国ペルシアとその国の人々が、革命や戦争のためにこんなにも苦労しなければならない理由とは。誰が戦争を始め、続けたいのか。

淡々と描かれた絵がまた、突き刺さります。

評価:(まさにカルチャーショック)

ハードラック*薬丸岳

hardluck.jpg派遣の仕事も辞めネットカフェ難民となった仁は闇の掲示板で募った仲間と金持ちの屋敷に押し入る。だがそこで何者かに殴られて昏倒、屋敷は全焼し他殺体が発見される。仲間にはめられ殺人放火犯として指名手配された仁は、手探りで真犯人を追うこととなるが。『問題小説』 掲載を単行本化。
(薬丸岳)1969年兵庫県生まれ。駒沢大学高等学校卒業。 『天使のナイフ』 で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。主な著書に 『闇の底』 『悪党』 など。


つくづく主人公 相川仁の浅はかさというか人生行き当たりバッタリには目を覆いたくなるのですが、案外こういう人は多いのかも(自分は大丈夫か?)。彼自身のせいではなく家庭、帰る家がなくなると人はこうなってしまうのかも。たとえ判断を誤っても帰る家があるということは、本当に幸せなことなのだと思います。

今回も見事なトリックというべきか、小説だからできた技かな。薬丸岳の読者を騙すテクニックはいつもながら一流です。冷静に考えていけば犯人になり得る人物は絞り込めるのに、最後まで真犯人を外して読んでしまいました、見事に薬丸さんの術中にはまりすぎだ(笑)。

お年寄りを狙う振り込め詐欺団をインターネットでしか繋がれない若者に絡め、現代社会の問題を鋭く映しています。ミステリ中のミステリ、今回もぜひご一読ください。

評価:(5つ満点)

マザーズ*金原ひとみ

mothers.jpg同じ保育園に子どもを預ける3人の若い母親。クスリに手を出す作家のユカ。乳児を虐待する涼子。夫に心を残しながら恋人の子を妊娠するモデルの五月。現代の母親が抱える母であることの幸福と孤独を描き出す。『新潮』 連載を単行本化。
(金原ひとみ)1983年東京都生まれ。文化学院高等課程中退。児童文学研究家、翻訳家の金原瑞人を父にもつ。『蛇にピアス』 ですばる文学賞、芥川賞を受賞。主な著書に 『アッシュベイビー』 『オートフィクション』 『AMEBIC』 など。


久々の金原ひとみ。主人公の1人、ユカは著者の投影ですが自らを 『悪趣味小説を書く作家』 と揶揄するところなどは潔いです。主人公がユカと涼子だけだとあまりにもステレオタイプな2人でつまらないのでそこに五月を入れたのか?と最初思ったのですが。前半はとにかくつまらないので何度か読むのをやめようかとも思ったのですが、後半ぐぐっと面白くなってくるので皆さんも頑張ってみてください。ラストは衝撃です。

ユカと五月と涼子。社会的立場も収入も夫も夫婦関係も三者三様、皆それぞれ全く違うけれど、同じなのは孤独だということ。金原の小説のテーマはほとんどすべて 『人はみな独り』 です。その一言を読者に伝えるために、ここまでの小説を書く。うーんやっぱり純文学はこうでなくっちゃ。

ユカも五月も涼子も、結婚して出産して何かを手に入れたはずなのにそうではなく、何かを失ってしまったような気持ちに日々苛まされている。そしてラスト、3人はそれぞれまた1つずつ失うが、代わりに得るものもあるのだ。シュールさが売りだと思っていた金原ひとみがこんな希望のあるラストを書くようになったなんて、ちょっと感動しますね。

評価:(5つ満点)

コラプティオ*真山仁

korap.jpg311震災後の日本を復興に導くカリスマ総理 宮藤。原発推進を軸に日本復興を果たすと宣言した若い首相は国民の支持を集める。次第に独裁化する宮藤、新聞社はスクープ記事で彼の独裁に歯止めをかけようとするが。首相のシンクタンクを務める調査官 白石とスクープを追う新聞記者 神林の2人の視点で交互に展開する。『別冊文藝春秋』 連載を東日本大震災の発生を踏まえ大幅に加筆修正し単行本化。
(真山仁)1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部卒。新聞記者、フリーライターを経て作家。主な著書に 『ハゲタカ』 『マグマ』 『ベイジン』 。


久々に骨太小説、真山仁これからどんどん読まなきゃ。と思いました。満足です。政事物はやっぱり頭使いますね…というか私も政治的無関心ということですねこれは。

この小説の何が面白いかと言えば、キャラが皆立っているところですね。各キャラクター描写が実に明確なのですごく分かりやすいです。総理側近である白石の強さと弱さ、同じく権力に立ち向かうペンを持つ者の代表である新聞記者という立場にある神林の強さと弱さ。全く立場も考え方も違う2人が社会を真剣に思う気持ちは同じだということ。そして総理の側近中の側近である主席秘書官 田坂。彼という存在の設定の見事さには本当に舌を巻く、です。

宮藤や野添という人物のモデルを思い浮かべると(実在の政治家です)本当に政治って怖いなと思います。すべての大人、社会人が政治に無関心、を捨てなくては社会は良くなりません。政治的無関心からの脱却は、可能でしょうか。

評価:(高校生から政治的無関心の大人までオススメです)

我が家の問題*奥田英朗

wagaya.jpg完璧すぎる妻のせいで帰宅拒否症になった夫。里帰りのしきたりに戸惑う新婚夫婦。誰の家にもきっとある、ささやかだけれど悩ましい6つのドラマ。『小説すばる』 掲載を単行本化。
(奥田英朗)1959年岐阜県生まれ。プランナー、コピーライター、構成作家を経て作家に。『邪魔』 で大藪春彦賞、『空中ブランコ』 で第131回直木賞、『家日和』 で柴田錬三郎賞、『オリンピックの身代金』で吉川英治文学賞を受賞。主な著書に 『イン・ザ・プール』 『ガール』 『サウスバウンド』  など。
(収録作品)甘い生活/ハズバンド/絵里のエイプリル/夫とUFO/里帰り/妻とマラソン


コンセプトとして 『家日和』 続編だそうです。フツーの家族のフツーの問題、決して楽観的な答えが待っているわけでもなく実に現実的な展開が待っています。あまりに現実的すぎて正直おもしろくない。

両親の離婚に悩む高校生、夫の精神不安定に悩む妻。誰もが悩んでいるのですが答えは自分で見つけるしかないこと。どれもそういうラストで終わるわけですが、奥田英朗の毒のある小説が好きな私としては、物足りないです。

評価:(5つ満点)

奥田英朗 『家日和』  2008/02/04
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DaisyAKM/菜摘
年齢:
53歳
誕生日:
1972/02/16
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