大手証券会社勤務からホームレスに転落した男。段ボールハウスの設置場所を求めて辿りついた公園で出会ったのは、怪しい辻占い師と若い美形のホームレス。世間の端に追いやられた3人が手を組み、究極の逆襲が始まった。3人が立ち上げた新興宗教は設計図どおりに順調に発展する。ホームレス生活からの劇的な生還、だが不協和音が響き始め…。
(荻原浩)1956年埼玉県生まれ。成城大学卒業。『オロロ畑でつかまえて』 小説すばる新人賞、『明日の記憶』 で山本周五郎賞を受賞。主な著書に 『押入れのちよ』 『愛しの座敷わらし』 など。
自分が作ったはずの宗教に、周囲が皆夢中になっていく。真実ではないものが真実になってしまった時。某宗教団体を彷彿とさせる内容は、怖いです。
木島が宗教団体 『大地の会』 の仕組みを考え、仲村を教祖に仕立て、文才のある龍斉に教義と出版本を執筆させ…と大地の会が徐々に 『成功』 していくさまは本当に見事で面白い。しかし自分が創設した大地の会にやがて追われることになる木島の転落ぶりもまた、衝撃的である。彼自身が自覚し切れていない幼い頃からのトラウマを、元妻の視点を借りて読者に伝えるところも巧いです。
今現在も、この本と同じことが起こっていそうで、明日は我が身かもしれない、と思わせるそのリアリティが怖いです。
評価:(5つ満点)
小学生の親は仕事よりも難しい!ワーキングマザーの陽子は息子の小学校の初めての保護者会でお母さんたちを敵に回してしまう。困惑、当惑、泣き笑い。痛快PTA小説。 『小説すばる』 掲載を単行本化。
(加納朋子)1966年福岡県生まれ。文教大学女子短期大学部卒業。『ななつのこ』 で鮎川哲也賞、『ガラスの麒麟』 で日本推理作家協会賞を受賞。主な著書に 『少年少女飛行倶楽部』 『ぐるぐる猿と歌う鳥』 など。
(収録作品)女は女の敵である/義母義家族は敵である/男もたいがい、敵である/当然夫も敵である/我が子だろうが敵になる/先生が敵である/会長様は敵である
ライトノベル的展開で登場人物らもステレオタイプだし、マンガだと思って読むと結構楽しめます。あまたある学校PTA、子ども会、自治会の活動をちょっと(かなり)デフォルメしたらこんな感じかなぁ、主人公 陽子もマスコミ人とはいえエキセントリック過ぎるし。そこがまた面白いんだけど。
資料作成も得意で気のいい沢さんが4人もの要介護親を抱えていたり、ヤンキーシングルママの五十嵐さんが実はいい人だったり、ロリコン教師に盗癖のある母親、そして陽子本人にも重大な秘密が、とワイドショー並みのバラエティぶりはちょっとやりすぎな気はしないでもないけど。でもPTA活動を通じて陽子は信念を曲げることなく、よりよい活動を提案していこう、という展開は好感が持てますね。ラスト、陽子にみんながアンタ市議とかになったら?と言ってますが、本当にこういうアグレッシブな人が政治家ならいいんですけどね。
あとがきに 『決してPTA活動を揶揄しているのではない』 とあり、そこが一番読者に対して心配だったのでしょうね。ラストの 『七人の敵がいる、されど八人の仲間あり。』 でまとまったかな。かつての敵から仲間になった人もいて、陽子の人徳?すごいです。
評価:(5つ満点)
文学者らが作った理想郷 『唯腕村』 。村で育った若者が次々と村を捨て出て行く中、ただ一人村に残った後継者である東一は、入村希望者の美少女マヤと出会いこの村を自分の欲望のためだけに使うことを決意する。『週刊文春』 ほか連載を単行本化。
(桐野夏生)1951年金沢市生まれ。成蹊大学卒業。『顔に降りかかる雨』 で江戸川乱歩賞、『OUT』 で日本推理作家協会賞、『柔らかな頬』 で直木賞、『グロテスク』 で泉鏡花文学賞、『残虐記』 で柴田錬三郎賞、『魂萌え!』 で婦人公論文芸賞、『東京島』 で谷崎潤一郎賞、『女神記』 で紫式部文学賞、『ナニカアル』 で島清恋愛文学賞を受賞。 また 『OUT』 で日本人初のエドガー賞候補となる。
待ちに待った(いつも)桐野夏生新作長編。毎日.jpのインタビュー記事によれば、
タイトルの 『ポリティコン』 はアリストテレスの言葉 『ゾーン・ポリティコン(政治的動物)』 から来ている。『政治的動物とは何か。平たく言うと「人間はどうやって共同で生活するの?」ということだと思いました。耳慣れないけどタイトルとして響きもいい。早い段階で決まっていました』 と桐野さん。
とります。政治的動物、つまり生きるために政治的活動が必要、ということ。政治とは、人心掌握?支配?
今回も桐野作品バリバリの、自分の欲望に実に忠実な登場人物ばかり出てきます。理想郷の精神を掲げながら限界集落となりつつある唯腕村の実態、後継者という理由だけでそこに執着し続ける東一、そこへ迷い込む北田、マヤ、スオンら帰る家のない人々。唯腕村の村民らは東一始め本当に自分の私利私欲のためだけに行動していて、呆れるを通り越してもう潔い(笑)。でもそんな人達のことを、『愛おしい』 という桐野氏。
桐野作品はこの、愚かだが愛おしい人間達、がテーマだと思う。自分の欲を満たすことしか考えていない東一、その東一を利用しようとするマヤ、東一に反発しながらも彼にすがって生きて行くしかない唯腕村の老人たち。決して同情できる人も爽やかな人も一人もいないのに、なぜか惹き付けられてしまうのは、やはり全編に流れる桐野氏の 『人間に対する愛』 なんだろうな、と思う。
人間は愚かだから、愛おしいと言う桐野氏。その桐野氏の生き方こそが、ハードボイルドではないでしょうか。いつでも新作が楽しみな作家の一人です。
評価:(5つ満点)
ここはどこだろう。なぜここにいるのだろう。見えない力に強いられ、記憶を奪われた女性の数奇な運命。命をつなぐ 『甘い水』 の正体とは。『真夜中』 連載を単行本化。
(東直子)1963年広島県生まれ。歌人、小説家。『草かんむりの訪問者』 で歌壇賞受賞。主な著書に 『青卵』 『とりつくしま』 『私のミトンさん』 、絵本に 『あめぽぽぽ』 『ほわほわさくら』 など。
久々に、読了してもぜーんぜん意味が分からない小説だった(爆)。謎、だらけの物語です。誰か解説して欲しいけど。
でも最近はこういう設定も筋もぜーんぜん分からない本を読んでも、ああこういう世界なのでこれはこれでいいのだ。と思えるようになりました。つまり、理解できないことを理解できないと受け止める。ということが少しできるようになった。うーん進歩だ(笑)。
たくさんの登場人物が出てきて、それぞれが親子関係であったり昔は呼び名が違ったり、と複雑な上に時間軸の配置がバラバラで必ずしも本の流れと時間の流れが一致していないのですが、生きるために 『甘い水』 なるものが必要な人々がいて、それなしでは生きていけない。しかし、それだけではただ生きているだけ、ということに気付いたとき、人はどんな行動に出るのか。
まっこと不思議な物語です、YA向けとあったので読んでみたのですがこれが一発でスッキリわかるYAさんがいたら、ぜひご教授願いたい。もしやYAだとスッキリハッキリ分かるのかっ?
評価:(初めて読んだタイプの小説)