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DaisyAKM Archives

読書と映画と観劇と

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おとぎのかけら*千早茜

otogi.jpgシンデレラ、白雪姫、みにくいアヒルの子など代表的西洋童話を現代日本に置き換えた耽美で鮮烈な短編集。小説すばる掲載に書き下ろしを加えて単行本化。
(千早茜)1979年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。小学生時代の大半をザンビアで過ごす。『魚神』(『魚』 改題)で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。同作で泉鏡花文学賞受賞。 
(収録作品)迷子のきまり/鵺の森/カドミウム・レッド/金の指輪/凍りついた眼/白梅虫/アマリリス

なかなかに面白い企画です、毒のある物語集に仕上がっています。金の指輪(シンデレラ)、凍りついた眼(マッチ売りの少女)が特に秀逸ですね。

昔話に込められている人の身勝手さ、を責める風でもなくさらっと描いていて、やはり新作が気になる作家の一人です。

評価:(5つ満点)
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おいしい中国「酸甜苦辣」の大陸*楊逸

oisii.jpg食べ物こそ中国の成長の秘密。中国東北部の食文化をカラー写真で一挙公開。楊逸が子ども時代を振り返り母国の食文化を通して文化や人々を縦横無尽に語る。東京新聞連載を大幅に加筆修正し単行本化。
 (楊逸)ヤン・イー。1964年中国ハルビン市生まれ。お茶の水女子大学卒業。在日中国人向けの新聞社勤務を経て中国語教師。『ワンちゃん』 で文學界新人賞、『時の滲む朝』で芥川賞受賞。著書に 『金魚生活』 『すき・やき』 。

中国三千年の食の歴史、楽しいことばかりの本かと思いきや、全然違いました。教師の家に生まれたために幼い頃一家揃って文化大革命の 『下放(シャオファン)』 の対象となり、厳しい農村での農作業の暮らしに従事したこと。春節の1ヶ月のために残りの一年間、ひらすらにただ働く生き方、などなど当時の中国の人々の厳しい暮らしがありありと迫ってきます。

楊氏は60年代生まれ。69年生まれの夫とほぼ同じ世代だというのにこんなに子どもの頃、食という人間の基本的な生活の部分で苦労されていたとは…。そして大多数の中国の人が、その苦労が当たり前であったとは。本当に世界は広く、私は知らないことが多すぎます。

厳しい下放の日々。3年経ちようやく下放から解放され戻るも、かつての家は既に他の人に取られ、学校の片隅に宿を取り暮らす日々。そこでもいつもお腹を空かせていた楊氏が思い出すのは、食べ物のことばかり。その日々の中で近所に暮らしていた回族(ウイグル族)の人々や朝鮮族の人々の話など、興味深く読みました。

改めて楊氏の日本語、かなりこなれてきたのを感じました。小説の新刊も楽しみにしています。

評価:(5つ満点)

往復書簡*湊かなえ

oufuku.jpg手紙だからつける噓。手紙だから許せる罪。手紙だからできる告白。あのこと、の真相が封筒からこぼれ出す。行き来する書簡のみで綴った連作ミステリー。パピルス連載に書き下ろしを加えて単行本化。
(湊かなえ)1973年広島県生まれ。武庫川女子大学卒業。『聖職者』 で小説推理新人賞、『告白』 で本屋大賞を受賞。主な著書に 『少女』 『贖罪』  『Nのために』 。
(収録作品)十年後の卒業文集/二十年後の宿題/十五年後の補習

湊かなえお得意の、後味の悪さを期待しつつ警戒しつつびくびくしながら読んだので、読み終わって3章とも 『いい人』 の話だったことに気付いて、ちょっと愕然としました。そのくらい、湊かなえと言えば悪い人ばかり出てくる本を書いている、という期待が大きすぎたらしいです。

仕掛けは今回もとても上手なのですが、上手なだけではなかなか読者の琴線には響かないのであります。などと偉そうに書いてみました。

ダ・ヴィンチ2011年2月号に特別書き下ろし 『一年後の連絡網』 往復書簡番外編 もありマス。

評価:(5つ満点)

ピスタチオ*梨木香歩

pisutatio.jpg緑溢れる武蔵野に老いた犬と住むライターの棚。アフリカ取材の話が来た頃から不思議な符合が起こりはじめる。彼女が訪れた先のアフリカで見つけたものとは。物語が人を生かす物語。ちくま連載を単行本化。 
(梨木香歩)1959年生まれ。児童文学者のボーエンに師事。 『西の魔女が死んだ』 で日本児童文学者協会新人賞、『裏庭』 で児童文学ファンタジー大賞を受賞。主な著書に『からくりからくさ』 『エンジェルエンジェルエンジェル』 『村田エフェンディ滞土録』 『春になったら苺を摘みに』 、絵本に 『ペンキや』 『マジョモリ』 『ワニ』 『蟹塚縁起』 など。


舞台はアフリカ、ナイロビというはるかな地であるのに、少しも遠さを感じないのはなぜでしょうか。主人公 棚の気持ちがそのまま日本につながっているからでしょうか。正直もっとアフリカらしさ、異郷らしさを期待して読み始めたのですが、案外本当にアフリカの地を訪れても同じ地球上、大した違いはないのかもしれませんね。

内戦やゲリラ、呪術医などが出てきて異郷であるにも関わらず、そこで棚が出会う人の縁、について棚本人はいたっ非常に変冷静なのです。それは 『からくりからくさ』 はじめ梨木氏の描く小説の主人公はみんなそうであるので、それはそれで梨木カラーということでいいのかな、とも思うのですが、棚の冷静ぶりには本当に驚きます。それがやはり受容、ということでしょうか。

テーマは 『死者には物語がある』 だと感じました。梨木文学はこのところ特に 『物語があること』 を意識しているように感じます。不思議な感覚のする小説です。

評価:(5つ満点)

歌うクジラ*村上龍

utaukujira.jpg2011年のクリスマスイブにハワイの海底でグレゴリオ聖歌を正確に繰り返し歌うザトウクジラが発見された。そして1000年後の日本では階級化格差が完全に進み人々は違う格差同士の交流は全くない社会で暮らしている。極端に合理化が進み敬語を使う人間がいなくなる中、最下層に属しながらも正しい敬語を操る 『敬語使い』 である少年は、不老不死の遺伝子を巡り階層を奪取する旅を始める。毎日芸術賞受賞。群像連載を単行本化。
(村上龍)1952年長崎県生まれ。武蔵野美術大学中退。 『限りなく透明に近いブルー』 で群像新人賞、芥川賞、『コインロッカー・ベイビーズ』 で野間文芸新人賞、 『村上龍映画小説集』 で平林たい子文学賞、『インザ・ミソスープ』 で読売文学賞小説賞、『共生虫』 で谷崎潤一郎賞受賞。主な著書に 『69 sixty nine』 『ラッフルズホテル』  『トパーズ』 『5分後の世界』 『半島を出よ』 など。

半島を出よ、から早数年。待ちに待った(ということでもないが)村上龍氏の新作は、またしても問題作です(笑)。

見事に未来の格差社会を描き切った村上氏の潔さに、まず拍手です。格差の行き着くところはこういう社会か…とぞっとしてきます。最初は 『敬語使い』 がキーワードなのかと思いきや、途中から展開がドンドン裏切られていくので読了直後は何なんだよーと思ったのですが、後から考えてみると段々と納得してきました。何よりも 『歌うクジラ』 そのものの存在の裏切り方が、もう巧いです。

未来社会は実に複雑に5層位の生活層にカッチリ分かれています。隔離されGPSを体内に搭載された性犯罪者の暮らす最下層『風呂』 が唯一の娯楽だという下層 、ひたすら機械のように交代勤務を繰り返し経済食である 『棒食』 (イメージとしてうまい棒?)を食べ続ける中間層、政治・経済一切の世界の管理を行う上層、そしてひたすらに娯楽だけを追求し  『死なない(死ねない)生命維持システム』 によって生かされ続ける最上層。この各層を主人公の少年と共に縦断する旅は、幻滅もし、さもありなんと納得もしつつ、それぞれの世界を観終わった後ははーっとため息をつくほどでした。

途中あちこち 『こんなに社会を揶揄しちゃって村上さんだいじょうぶう…』 と心配になるほど、過激なところも多々あって誠に刺激的です。そしてラスト、人類の行きつく果ては 『歌うクジラ遺伝子』 なのか、本当に?

希望の感じられるラストでようやくちょっと救われた気持ちになりました、大人の方はぜひご一読を。

評価:(5つ満点)

魚神*千早茜

iogami.jpg生ぬるい水に囲まれた孤島。ここにはかつて政府によって造られた一大遊廓があった。廓に売られた白亜と薬売りのスケキヨ。美貌の姉弟の魂は惹きあい、反発し合う。小説すばる新人賞、泉鏡花文学賞受賞。
(千早茜)1979年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。小学生時代の大半をザンビアで過ごす。本作で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。同作で泉鏡花文学賞受賞。 

ちょっと宮木あや子風でなかなかに私好みの小説でした。千早茜も今後要チェックです。

あまりに幻想的すぎる世界観で、ラストはまさかの夢オチじゃなかろうな、とまで思ってしまいましたがそうではなくて安心しました。途中いろいろと、あれはこういうことの隠喩では…と考え出すとすごくややこしくなりそうなので、あえてサラッと読んで終わりにしてしまいました。

愛は、実に難解であります。

評価:(5つ満点)

待機晩成*笹野高史

taiki.jpgあえて自らをワンシーン役者と自称する笹野高史。『武士の一分』 で日本アカデミー賞 最優秀助演男優賞を受賞した男はどんな半生を送り、その節目でどんな壁にぶつかり乗り切ってきたのか。自伝的仕事論。
(笹野高史)1948年兵庫県生まれ。日本大学芸術学部中退。ミュージカル『ミスサイゴン』、映画 『男はつらいよ』 シリーズで活躍。『武士の一分』 徳平役で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。出演作品に 『おくりびと』 『剣岳 点の記』 など多数。

軽いノリの文章でサクサク読ませますが、ポリシーある役者人生を歩まれてきた笹野さんの半生がよく分かる一冊になっています。人生は出会いですね、やっぱり。私もこれまでの数々の出会いに感謝しつつ、これからもどんどんよい出会いを探さないと、と思いました。

『ワンシーン役者』 を自称されている笹野さんですが、何の何の、です。武士の一分のみならず、おくりびと、歌舞伎ニューヨーク公演(歌舞伎役者じゃないのに出演!)、そしてあのミス・サイゴンではエンジニア役を!それは知らなかった!あの、I氏(と本文にはある)とダブルキャストでエンジニアを!既に大物一流俳優さんじゃないですか…歌もダンスも沢山あるエンジニアを演じてらしたとは。笹野さんはやはり只者じゃなかった。

その笹野さんがH市の市民大学講座に講演で来てくださったのです。その折も 『もっと自分は良くできるはずだ、というのは思い上がりなのです』 という一言が、沁みました。芝居をしていてももっとあのシーンでは巧くできたのに、と後悔するのはとんでもない思い上がりだ。自分が今できる精一杯をやれば、それが自然と認められるようになることを、武士の一分で学んだ、と言われていました。人生の様々なシーンに当てはまる、名言をいただきました。

温厚に見える笹野さんも、お若い頃は結構いろいろあったそうです、ケンカもなさったそうです。それでもなお周りの方々に感謝し、若い俳優も尊敬し続けるその姿勢が、今の笹野さんを作ったのですね。

よい邦画に貢献し続ける笹野さんのご活躍も、これからも期待しております。

評価:(5つ満点)

イニシエーション・ラブ*乾くるみ

initiationlove.jpg目次から仕掛けられた大胆な罠、全編にわたる絶妙な伏線、そして最後に明かされる真相。80年代を舞台にほろ苦くてくすぐったい恋愛ドラマ…だったはずが最後の2行ですべてが覆る。大仕掛けがメインの小説。
(乾くるみ)男性。1963年静岡県生まれ。静岡大学理学部数学科卒業。 『Jの神話』 でメフィスト賞を受賞。他の著書に 『匣の中』 『塔の断章』 など。

まず著者乾氏は男性、だそうです。ペンネームも女性的だけど、こんな本を男が書いたのか…という意味でもゲッソリ来るような、内容です。最初に申し上げますが、本当に読書がお好きな方は読む必要がないですよ。内容としてはほんっとうにつまらない本です。しかしあえて読んだのは、ラスト2行ですべてがひっくり返る、というこの本の大仕掛けを見てみたかったからです。いったい何がラスト2行なのか…で絶対に最後の2行を先に読んではいけません。読んだらもう、絶対読みたくなくなるから(笑)。

という長い前書きは置いておいて、SIDE AとSIDE Bという2つのストーリーがあります。正直SIDE Aはものすっごくつまらないですが、我慢我慢して読んでください。それもラストの大仕掛けのため。そしてSIDE Bに入り徐々に感じてくる数々の違和感、その正体が段々と明らかになってきて…。

私は文庫版を読んだので、最後に解説が付いていて本当に良かったです。この解説がなかったら今でもこの小説の意図が分かってなかったと思います、解説の方本当にありがとうございます。あったまいい方は目次で分かるのでしょうね、このトリック。本書はトリックそのものを楽しむ小説なので人物描写とかかなりステレオタイプですが、そういうことを突っ込んではいけません。これは小説ではなくゲームだと思って読み進んでください、ですから小説としての評価は低いですが、こういうエンタメもたまには面白いかな、と思います。

評価:(つまり小説としての評価は2ってこと?)
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プロフィール
名前:
DaisyAKM/菜摘
年齢:
53歳
誕生日:
1972/02/16
職業:
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