通り魔や傷害を繰り返す翔人は逃亡途中に成り行きで助けた老婆の家に滞在、野良仕事を手伝ううちに村に馴染んでいくが…。現代の若者の 『絶望感』を細やかな心理描写で描く。 『小説トリッパー』 連載を単行本化。
(乃南アサ)のなみあさ。1960年東京都生まれ。早稲田大学中退。広告代理店勤務等を経て作家活動に入る。『幸福な朝食』 で日本推理サスペンス大賞優秀作、『凍える牙』 で直木賞を受賞。主な著書に 『団欒』 『あなた』 など。
感涙。と紹介されたので期待大で読みましたが私は泣きませんでした。でも私が泣かなかったのは、やはり同じ母親であるおスマ嬢の立場から物語を読んだからかも。
何に対しても自暴自棄で通り魔や傷害事件を繰り返してきた翔人が改心していく展開はやはり2時間ドラマ的だけど、こういうラストは気持ちがいいなぁ。シゲじいがとても存在感あり、ベスト。それにしても乃南氏は方言にも地方の風土にも非常に詳しく、やはり作家はこうでなくては、と思わせます。トリッパーっぽいと言えばそれっぽいとも言えます。
乃南作品をこれまで数冊読みましたが、結構ヤングアダルトにも適な感じです。YAの皆さん、乃南アサをどんどん読みましょう!
評価:(5つ満点)
桂美容室別室の店長、カツラさんは美容師なのにカツラをかぶっている。なぜかは分からない。カツラをかぶる店長・桂孝蔵の美容院を舞台に、淳之介とエリ、梅田さんらの友情とも愛情ともつかない交流を描く。
(山崎ナオコーラ)1978年福岡県生まれ。国学院大学卒業。『人のセックスを笑うな』 で文芸賞を受賞。 主な著書に 『浮世でランチ』 『指先からソーダ』 など。
主人公の淳之介は27歳。『人のセックスを笑うな』 の磯貝くんと同じく、主体性がほとんどなくギラギラしてなくてボーッとした感じ。テレビ欄を作る会社に勤めてるって… 『人のセックス…』 のユリのダンナ、猪熊さんと同じ会社か!?
桂さんの美容室でのやりとりが中心に描かれているが、淳之介の交友関係は梅田さんと桂美容室別室の人々としかないのだろうか?とやや疑問。狭すぎる社会(桂美容室別室)だが、その中だけで生きていければ人は幸せなのかもしれない。
しかし相変わらず、何を言いたいのかテーマは不明で、消化不良。
評価:(5つ満点)
漫画家の日々の暮らしはおかしくもあり哀しくもある。デビュー25年目にして初めて自己を語ったエッセイ集。描き下ろし漫画 『タマちゃんアイス』 収録。
(近藤ようこ)1957年新潟県生まれ。国学院大学卒業。漫画家。新潟中央高校在学中に同じく同校在学中であった高橋留美子らと共に漫画研究会を設立した。 『見晴らしガ丘にて』 で漫画家協会賞優秀賞受賞。主な著書に 『ルームメイツ』 『アカシアの道』『うきうきお出かけ着物術』 など。
以前も言いましたが私は近藤ようこ氏のファンなので近藤氏のエッセイとあらばもちろん拝読します。近藤氏は折口信夫に憧れて国学院の文学科で民俗学を学んだという、自他共に認める【オタク】だそうですが…民俗学ってやっぱり?オタクなのでしょうか?民俗オタクとは史学科卒の私と通じるモノがありますね、やはり…。
自分は世の中のことに疎い、と近藤氏はこのエッセイでしばしば語ってますが、何の何のです。氏の著作を読めば、人と人との関係、社会というものに対する深い造詣と愛情が伝わってきます、だからこそ近藤作品は面白いのです。着物好きなところもイチイチ理由を挙げ連ねる点で、やっぱり立派なオタクぶりに感服。でございます。
これからも漫画を描き続けていただきたい、私の好きな漫画家さんです。
評価:(ファン必読)
高校2年の麻里子は両親を亡くしてから姉の秀子、兄の俊太郎と3人暮らし。母の死後、自分に冷淡になった兄との関係を麻里子は悩んでいた。その頃世間では奇妙な通り魔事件が頻発、犯人は女子高生のカバンばかりを狙っていた。そして麻里子の親友が麻里子宅から帰る途中にこの通り魔に襲われ。やがて通り魔事件の犯人は殺人死体となって発見されるが、麻里子にはこの一連の事件で兄に相談できずにいる秘密があったのだ。兄弟の確執、麻里子の悩み、そして通り魔事件。それぞれのもつれた糸がほどけていくにつれ複雑な事件の全容が明らかになってくる。
(乃南アサ)のなみあさ。1960年東京都生まれ。早稲田大学中退。広告代理店勤務等を経て作家活動に入る。『幸福な朝食』 で日本推理サスペンス大賞優秀作、『凍える牙』 で直木賞を受賞。主な著書に 『団欒』 『あなた』 など。
乃南氏の場面設定は本当に秀逸、そもそもなぜ 『鍵』 が麻里子のカバンに入っていたのだろう?それぞれの考えと方法で事件を解こうとする兄と妹、その確執は氷解するのだろうか。
途中からやや急展開になり2時間ドラマ的な雰囲気になってしまうが、兄 俊太郎、妹 麻里子、それぞれの心情が丁寧に描かれており、好感が持てる。見事なミステリー仕立て。
評価:(5つ満点)
優雅だがどこかうらぶれた男。一見大人しそうな若い女。アパートの押入れから漂う罪の異臭。父娘はどこから来てどこへ向かうのか。時系列を逆に遡り父娘の壮絶な親子の愛情を描いた作品。第138回直木賞受賞作。
(桜庭一樹)1971年島根県生まれ。小説家、ライトノベル作家。フリーライターとして活動後コンピュータゲームシナリオ、ゲームノベライズ等を手がける。 『赤朽葉家の伝説』 で日本推理作家協会賞受賞、本作で第138回直木賞受賞。主な著書に 『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』 『赤×ピンク』 『青年のための読書クラブ』 など。
久々に直木賞受賞が納得の作品だが、この作品は大衆文学というよりむしろ純文学ではないのだろうか?などと思ってしまう。この頃ますます大衆文学(直木賞)と純文学(芥川賞)の区別が付きません。
現代から過去へ遡るという構成がまず面白い。娘である花と義父である淳悟の関係が徐々に変わっていく様を、なぜ時の流れと逆に描いたのだろうか?血は本当に水よりも濃いのか?家族とは何なのだろう。ただ頑なまでに排他的な花と淳悟の親子関係は、やはり血のなせる技なのだろうか?
正直展開が途中から見えてしまうところがマイナスだが、時系列を現在から過去へと逆にしているところが新鮮でプラス1。高校生から小学生の頃の花の視点が見事に描かれているところが素晴らしい。花と結婚する美郎が、なぜあの?花と結婚しようと思ったのがよく分からないけど…。美郎自身もつまらない男だし。ここに登場させることで淳悟と正反対の男を描きたかったのかな?
評価:(5つ満点)