苛められ、暴力をふるわれ、なぜ僕はそれに従うことしかできないのだろう。そんな僕にある日届いた一通の手紙。そこには 『私達は仲間です』 とあった。少年の痛みを抱えた目に映る 『世界』 に救いはあるのか。善悪の根源を問う長篇小説。『群像』連載を単行本化。
(川上未映子)1976年大阪府生まれ。大阪市立工芸高等学校卒業。ミュージシャン、女優、文筆家、小説家、詩人であり自称 文筆歌手。『乳と卵』 で芥川賞受賞。主な著書に 『わたくし率イン歯ー、または世界』 『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』 『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』 など。
初めて川上作品を読みましたがコレはとても読みやすかったです。『乳と卵』 は私にはややしんどい文体だったので未読でしたが、このヘヴンが良かったのでやっぱり読んでみようかと思ってます。小説とは虚構であるがその虚構の中のリアルが大切、そのリアルが虚構を支えている。ということをじっくり感じた一冊でした。
僕にもコジマにも二ノ宮にも百瀬にも、この世界はたった一つ同じであるのに、同じではないという事実。正しいことは、自分の進む道はどこにあるのか、中2男子の視点を揺るがず書き切っている川上氏の力量は本当に素晴らしい。コレぞ 『ホンモノ』 だと読了直後思いました。純文学、やはり奥が深いですね。
中2の僕の【外側の世界】として医者を、その【境界線】として母をうまく配置しています。非常に重いテーマなのですが、読了後むしろ清清しさを感じる、この力量は何なんだ!川上氏の今後の作品も必読ではないでしょうか、ぜひご一読を。
評価:(5つ満点)
幸せになるまで死ねません。恋も仕事も夢見る少女じゃいられない5人のアラサー女子の、タテマエ一切ナシのガチガールズトーク。心の叫びがコダマする、笑って泣いて仲間と飲んで、明日もがんばる痛快作。
(宮木あや子)1976年神奈川県生まれ。 『花宵道中』 で 『女による女のためのR-18文学賞』 大賞と読者賞を同時受賞しデビュー。 主な著書に 『白蝶花』 『雨の塔』 『群青』 など。
(収録作品)尻の穴に座薬/くちびるから松阪牛/太陽にぽえむ/模型だらけの俺んち/曇りガラスの三十代/愛して野良ルーム
アラサー女子のガールズトーク。らしいがやや煩雑すぎ、コレは初めて宮木で外したか…と思っていたところ、最後の横山が主人公の『曇りガラスの三十代』 と書き下ろし終章の 『愛して野良ルーム』 でまぁキレイにまとまったかな。アラサーってことはもういい大人なのにこの子達はいつまでも子どもだなぁ…なんだかんだ言って恋愛至上主義だし。今時の子どもみたいな30歳を描いたんだろうけど、無責任っていいなぁという感想しか出ないぞ。本当は無責任な人生なんてイヤだぞ。
評価:(読者サービスし過ぎ?)
開発保留地区。それは10年前3095人の人間が消え去った場所。だが街は今でも彼らがいるかのように日々を営んでいる。存在しないはずの図書館から借りられる本、ラジオ局に届く失われた人々からのはがき、響き渡る今はもうない鐘の音、席を空けて待ち続けているレストラン。そして開発保留地区行きの幻のバス。失われた時が息づく街を舞台にその痛みから立ち上がる人々を描く。『失われた町』 続編。
(三崎亜記)1970年福岡県生まれ。熊本大学文学部史学科卒業。『となり町戦争』で小説すばる新人賞受賞、第133回直木賞候補作。著書に 『バスジャック』 『失われた町』 『鼓笛隊の襲来』 『廃墟建築士』 。
『失われた町』 続編、前作よりずっとよく出来ています。町の失われる構造についても前作よりずっとよく理解できますね。三崎お得意の不可思議世界観が今回もよく表現できていると感じました、職業としての歩行技師とか、居留地の様子とか。個人的には見えない図書館、第五分館に心惹かれますねやっぱり。
過去と決別し新しい人と出会い、その人と歩むことを決意する人々が多く出てきます、人はやはり強いものなのですね。 『刻まれない明日』 というタイトルもなかなか意味深ですね、どういう意味かな?分断されないってこと?実際には明日への一歩を踏み出す人々の強い意志を描いた物語。前作を読まなくても読めますが、読んでおいた方が三崎氏の織りなす不可思議世界の考え方がより分かり、楽しいです。
評価:(今回も装丁がいい)
退屈な日常をくしゅっとまるめたい人へ。くすくす笑えて時に爆笑。穂村弘の不思議でファニーな毎日を綴る。『別冊文藝春秋』 連載に加筆修正して単行本化。
(穂村弘)1962年北海道札幌市生まれ。上智大学英文学科卒業。歌人、翻訳家、エッセイスト。『短歌の友人』 で伊藤整文学賞、『楽しい一日』 で短歌研究賞を受賞。主な著書に 『シンジケート』 『短歌という爆弾』 『もうおうちへかえりましょう』 『本当はちがうんだ日記』 など。
にょっ記よりはややインパクトが少ない、パート2ってそんなもんだけどやっぱり残念。結婚してホムラさんも落ち着いちゃったのかしらね。古本ネタも少ないし、こうなったら古本ネタだけで一冊作ってくれてもいいのに。リカちゃん電話、GIジョー電話など笑える話題もポチポチありますが、本書一番のヒットはこれかな。
◆ タカオ
友人に聞いた話を思い出す。バスの中で母親に尋ねられたのだという。「タカオって誰?」
母が指さした先には紳士服の広告があった。「エレガントなスーツを貴男に」
ハチミツ、というのもなかなかウケました。
◆ ハチミツ
太陽印の純粋ハチミツは栄養満点です。
パンに!ケーキに!ヨーグルトに!お子さま達に!
ぎょっとする。
確かに並列で並べる語句としてはいきなりだもんなぁ、 『お子さま達に』 。オオカミさんにでも勧めているのだろうか?
評価:(5つ満点)
犯行時刻の記憶を失っている死刑囚。その冤罪を晴らすべく刑務官だった南郷は前科を背負った青年 三上と共に調査を始める。手掛かりは死刑囚の脳裏に甦った 『階段を上った』 という記憶のみ。処刑までに残された時間はわずか。2人は無実の男の命を救うことができるのか。事件を追うごとに徐々に事件の側面が明らかになってゆく。江戸川乱歩賞受賞作。
(高野和明)1964年東京都生まれ。ロサンゼルス・シティカレッジ中退。帰国後脚本家となる。本作で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。主な著書に 『グレイヴディッガー』 『K・Nの悲劇』 『幽霊人命救助隊』 など。
見事としか言い様のないプロット、そして人の狂おしいまでの想い、愛情。久々に読みながら 『あっそうか!』 と叫んでしまいました(笑)、見事な構成です。薬丸岳が読んで感銘を受け、小説家になる決意をしたという一作、というのにも深く頷けてしまいました。コレはとにかくスゴイです、恐るべし乱歩賞。
物語は最初からちゃんと読者にヒントを与えながら進んでいきます、何度も言っておりますがいきなりラストで大ドンデンという物語はキライですね。本作は何度も途中で 『そういえばアレは?』 と反芻して楽しめた、本当にミステリーらしい秀作です。この読書の合間の、本の中身について考えを巡らせる時間を持つということが、もしかすると読んでいる時より楽しく読書の醍醐味というのかもしれない、といつも思います。
主人公は南郷ですが時折はさまれる一人称三上の箇所もいいですね。隠した過去を匂わせつつ事件は真相へ、一体誰が善で誰が悪か?先入観というものは本当に恐ろしいです。元刑務官 南郷と中堅検事 中森の、正義を正義として全うさせたいという強い信念には救われる想いがします、こういう人達もまだ実際に現場にいるのだと信じたいです。
これ以上言うとネタバレですが、本作は死刑制度の仕組み、前科を持つということ、保護観察の仕組み、そして町工場の高い技術力(!)など様々な要素も織り交ぜたヒューマンドラマとして成り立っており、お見事です。よい小説とは経験ではなく作家の素質かもなやっぱり。と乱歩賞作品一覧を眺めて思っています。他の著作も読まなきゃ、今回も必読です。
評価:(最近アタリが多いわ)
学校じゃ学べない社会の本当を語ろう。日本を代表する社会学者が、自分と他人、こころとからだ、本物とニセ物、など社会学の最先端の知識をふんだんに盛りこみ解説。社会学の基礎を学ぶ中高生はもちろん大人にも。
(宮台真司)1959年仙台市生まれ。東京大学大学院院人文科学研究科修了。社会学博士、首都大学東京教授。社会システム理論専攻。主な著書に 『権力の予期理論』 『終わりなき日常を生きろ』 など。
私はこの世の中で一番難しい学問の一つが社会学ではないかと思っています。社会、すなわち私達が生きている今この世の中を論じる学問なんて。簡単そうに見えて一番難しいのでは。誰もが社会すなわち他者との関わりを無視して生きることができない現代において、中学生を対象に社会を論じることの大切さ、難しさをつくづく感じます。というか中学生でなくとも十分社会と自分の関わりを意識しそれについて真っ向立ち向かうのは困難なことなのだと今更ながら感じます。
社会学者としての宮台氏は、その過激な発言でも有名ですが、そうした先入観を抜きにしても社会そのものを常に考え、論じ、その方向性を見いだそうと常に模索してる氏の姿勢には、やはり見習うべきものが多くあります。 『誰もがエリートを目指さなくてはならない日本社会の在り方は間違っている』 『一部のエリートが社会構造を考え、人々を牽引する力と立場を持つべきだ』 という主張、ここだけ見るとファシズムを感じますが、実際のところこれは核心を突いているのではないでしょうか。
誰もが、すべての学校の科目において優秀な成績を修めなくては評価されない、現在の教育システム。個性個性と口では言いながら実際には全員に同じ学習をさせ、同じ成果を求める義務教育の在り方。果たしてそれでよいのでしょうか?もちろん一律に、平等に教育を施すことは理想ですし重要なことですが、そこから外れる子どもを評価しない、その結果疎外しようとする現代の教育システムには、やはり欠陥があると言わざるを得ません。
誰もが属している社会という大きな枠組み。時に自分自身の社会について、考える機会が大人も子どもも必要ですね。
評価:(5つ満点)