39歳、男は妻から妊娠を告げられた。それがすべての始まりだった。結婚して12年目の2007年、調査会社管理職の俺の妻が他の男の子どもを宿す物語。2035年、小さなプロレス団体に所属する無敵の王者アムンゼン・スコットの戦いの物語。二つの物語が優しく響き合う。
(西加奈子)1977年テヘラン生まれ大阪育ち。関西大学法学部卒業。『通天閣』 で織田作之助賞受賞。主な著書に 『あおい』 『さくら』 『きいろいゾウ』 『きりこについて』 など。
純文学、ですね。この感覚久々な感じ。2007年と交互に挿入される2039年の描写が最初は訳分からんなのですが、だんだんとその関連性が見えてきます。社会とはすなわち人と人との距離感のこと、それをうまく取れる人と取れない人がいること、それは当たり前のことなのだということを教えてくれます。ラスト、2007年でずっと苦悩してきた(も端から見ると笑ってしまう)主人公が、2039年のプロレスのシーンで救われていることを読者が知る、西加奈子のこの優しさがいいなぁと思うのです。
ちなみにいきなり西加奈子なのは、母が西加奈子が好きだと言ったので。私と全く読む本の趣味が異なる母との読書談話はどこまで行けるでしょうか。
評価:(5つ満点)
彼は小説に命を懸けると何度も言った。小説は悪魔かそれとも作家が悪魔なのか?恋愛の抹殺を描く小説家の荒涼たる魂の遍路。本当に恐ろしいものは人の内側にあるのだろうか、人の内面を描こうとする作家の断罪を描く。
(桐野夏生)1951年金沢市生まれ。成蹊大学卒業。『顔に降りかかる雨』 で江戸川乱歩賞、『OUT』 で日本推理作家協会賞、『柔らかな頬』 で直木賞、『グロテスク』 で泉鏡花文学賞、『残虐記』 で柴田錬三郎賞、『魂萌え!』 で婦人公論文芸賞、『東京島』 で谷崎潤一郎賞を受賞。 また 『OUT』 で日本人初のエドガー賞候補となる。
正直桐野著 『OUT』 とは全く無関係な話で、表紙は似せるは題に含みを持たせるわ、ちょっとその話題で引っ張りすぎでは?(笑)主人公の孤独感ばかり、それも一方的な思いばかりが前面に出ておりますが、人ってこういう風に自分のことしか見えないもんだよな。と納得させられてしまうのはやはり桐野氏の技量ですね。同じく女の身勝手を描いた角田光代 『森に眠る魚』 とは同じ★3でも読了感が全く違います。
桐野氏に言わせれば愛情すらもそれは身勝手なもの、人の内側(inside)のもの、ということなのでしょうか。
評価:(5つ満点)
本当に長年。この本の復刊を待ち望んでいました。
実家に本がないかどうか問い合わせたり、古書店のサイトを見たり…図書館で借りたり。でもやっぱり手許に欲しい一冊!それがついに文庫版で復刊!の情報を見てすぐその場で本屋に電話→取り置きしてもらいました。20:00過ぎにいつも突然でスミマセン本屋さん。
世界を旅してきたお父さんの冒険譚は実はラッパ話(ホラ話)なのですが、各国の文化を踏まえた物語は本当にお父さんがそこで生き生きと過ごした様子が伝わってきて、一緒に世界各国へ旅ができます。14話構成、一話が適度な長さで一話ずつの語り聞かせにも適。さらに堀内誠一氏の挿画が底本そのまま、カラー多彩!文句のつけどころのない仕上がりです。
復刊、バンザイ!
評価:(満点!)
若者たちで賑わう東京台場で1人の外国人が倒れる。病名不明のまま間もなく死亡する男。これは細菌テロの序章なのか。公安、内閣調査室が動き出す。所轄署としての責務を負わされたベイエリア分署安積班のテロとの攻防を描く。シリーズ長篇書き下ろし。
(今野敏)1955年北海道生まれ。上智大学卒業。『怪物が街にやってくる』 で問題小説新人賞を受賞しデビュー。『隠蔽捜査』 で吉川英治文学新人賞、『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を受賞。TBSドラマ 『ハンチョウ~神南署安積班~』 の原作シリーズなど著書多数。
安積班長を初めて読みました。交機の速水とのやりとりと言い、ちょっとハンチョウってスマート過ぎかな。もっと人間味が欲しいけど。所轄内で細菌テロが起こる…という展開なのですが、公安、内調と入り交じり、その中でハンチョウチームが色々と苦難を強いられる様子を描いてます。どこへ行ってもハムの人達は嫌われ者ねぇ。ラストの大ドンデンもなかなかにやりますな。このひっくり返し方が今野流です。
半夏生というタイトルとそれにまつわる登場人物のセリフが、季節を感じさせて非常にさわやかでいいです。
評価:(5つ満点)
東京の文教地区の町で出会った5人の母親。年齢も環境も違う彼女らは育児を通じて次第にに心を許しあうが、子どもの進学先を巡りいつしかその関係性は変容していく。母親たちの深い孤独と痛みをあぶりだした母子小説。
(角田光代)1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。『幸福な遊戯』 で海燕新人文学賞、『まどろむ夜のUFO』 で野間文芸新人賞、『ぼくはきみのおにいさん』 で坪田譲治文学賞、『キッドナップ・ツアー』 で産経児童出版文化賞フジテレビ賞、路傍の石文学賞、『空中庭園』 で婦人公論文芸賞、『対岸の彼女』 で直木賞、『八日目の蟬』 で中央公論文芸賞を受賞。
文京区音羽のお受験殺人事件がモチーフ。あれもかなり異常な事件だった。何年経ったのだろう?角田氏が設定した個性溢れる主婦達はそれぞれに面白いが、こんな個性ならいらんわ。と思ってしまう人達ばかりだった(苦笑)。あまりにも考え方が自己中心的過ぎる。現代人は皆そうだと言いたいのかもしれないが、決してそうじゃないと私は思っている。
彼女らは1人として本当の友達を持ってない、それは本当の友として付き合おうとしないからだ。子育てする前に社会性を学びたまえ!と声を大にして言いたい(私に言われたかないだろうが…)。というか、20、30歳を過ぎて子育てもする年齢になって、未だ社会性のなさ過ぎる人が多すぎる、ということを描きたかったのだろうか?
それにしてもこの物語はここまで来たらもう狂気ですね、子育てに狂気を持ち込まないで欲しいわ。ラストも救いがなく、角田さんこれはキツイなーと思ってしまいました。
評価:(5つ満点)
ローマで日本人少女が失踪する。誘拐か、テロの序章か?真相を追い一匹狼の外交官 黒田がイタリアを駆ける。2009年7月公開映画 『アマルフィ』 のプロットを元にしたエンターテイメントサスペンス。
(真保裕一)1961年東京都生まれ。小説家、脚本家。シンエイ動画入社後 『連鎖』 で江戸川乱歩賞を受賞し作家デビュー。『ホワイトアウト』 で吉川英治文学新人賞、『奪取』 で日本推理作家協会賞、山本周五郎賞、『灰色の北壁』 で新田次郎文学賞を受賞。 映画脚本参加に 『ホワイトアウト』 『ドラえもん』 シリーズ、『アマルフィ 女神の報酬』 など。
真保氏は映画 『ホワイトアウト』 の原作者として有名ですが、元々映画制作会社のスタッフだったのですね。なるほどだから映画として 『魅せる』 シーンの描写が上手なわけです。しかしそれを返せば逆に映画だからこそ活きる場面だろうなぁ、という印象が強くなってしまった仕上がりであるのも、否めません。
本作は織田裕二主演映画の原作プロットであり、映画制作及び織田主演が先に決まっていたということで私の頭の中も最初から映像:織田裕二。そこから逃れられません…。全体としてはまとまっているようですが犯人像がイマイチつかめないし、美しいアマルフィの景色が設定が冬ってことでかなり半減でなかろうかー?とか思ってしまいました。やっぱりここは夏でしょう。
映画は多分…行きません、ごめんなさい。でもテレビ放映されたら見てみたいな。
評価:(5つ満点)
植物園の園丁は椋の木の巣穴に落ちる。巣穴の中には不思議な世界が広がっていた。前世は犬だった歯科医の家内、ナマズの神主、烏帽子を被った鯉。植物や地理を豊かに描き、埋もれた記憶を掘り起こす異界譚。
(梨木香歩)1959年生まれ。児童文学者のボーエンに師事。 『西の魔女が死んだ』 で日本児童文学者協会新人賞、『裏庭』 で児童文学ファンタジー大賞を受賞。主な著書に『からくりからくさ』 『エンジェルエンジェルエンジェル』 『村田エフェンディ滞土録』 『春になったら苺を摘みに』 、絵本に 『ペンキや』 『マジョモリ』 『ワニ』 『蟹塚縁起』 など。
非常に不思議な雰囲気の物語。家守綺譚に通じるものもあるようで、もっと奇妙な物語。
植物園に勤める佐田は妻に先立たれ下宿屋で独り身で暮らしている。寂しいはずの毎日だが淡々と暮らしている様子。そんな佐田が心を傾けているのは園内の一角の調整で…そこに大きなウロがある。ふるやのもり、で猿と泥棒がしっぽを引き合ったウロのようなイメージ?
前世犬だったという歯医者の奥さんやらおかしな異形のものばかりが出てきてどうなるやら…。正直雑多な感がするものの、ラストは清々しい。
評価:(5つ満点)