心配症の芭子と能天気な綾香。一回りも年の違う仲の良い友人である2人には、他人に言えない過去があった。恋愛には懲りたはずの芭子に今回淡い出会いが。世間の目に怯えつつもいつかは自分たちも陽のあたる場所で生きて行きたいと人生を模索する日々。刑務所帰りの2人を描く 『いつか陽のあたる場所で』 続編。yomyom11号掲載。
(乃南アサ)のなみあさ。1960年東京都生まれ。早稲田大学中退。広告代理店勤務等を経て作家活動に入る。『幸福な朝食』 で日本推理サスペンス大賞優秀作、『凍える牙』 で直木賞を受賞。主な著書に 『涙』 『鍵』 『しゃぼん玉』 など。
おなじみ芭子と綾香、ムショ帰り二人組の続編。毎回yomyomが発売されるたびに掲載されていないか楽しみにしているシリーズです。
今回は最初からネタバレで恐縮ですが、ハムの人の良心が描かれている初めての作品のような気がします。世間におびえ過去を隠して暮らす芭子と綾香に優しく接してくれる謎の人。それはハムの人だったのだ!お金のない二人に奢ってくれ、ささやかな楽しみを提供してくれた彼。世の中まだまだ人情があるということをハムの人に教わるとは…芭子と綾香じゃなくてもビックリですが、本当はハムの人も優しい人がいるのかもね。
今回もおとぼけ警官、高木聖大が大活躍です(笑)。
評価:(5つ満点)
21世紀半ばスラム化にむしばまれていた東京。TVネットワークという大資本により生まれ変わった東京にメディアを通じた扇情的な連続殺人事件が発生。ある出来事がきっかけで東京を去り引退を決意していた私立探偵のヨヨギケンは、旧知の作家から妻の護衛を依頼され、TVネットワークが支配する東京湾の人工島に乗り込むが。『B・D・T 掟の街』続編。
(大沢在昌)1956年名古屋市生まれ。慶応義塾大学法学部中退。『感傷の街角』 で小説推理新人賞を受賞しデビュー。『深夜曲馬団』 で日本冒険小説協会最優秀短編賞、 『新宿鮫』 で日本推理作家協会賞長篇賞、吉川英治文学新人賞、「新宿鮫 無間人形」で第110回直木賞、 『心では重すぎる』 で日本冒険小説協会大賞、『パンドラ・アイランド』 で柴田錬三郎賞を受賞。
近未来ファンタジー、大沢先生お得意のパターン。近い将来私達はTV(インターネット)に洗脳される日が来るだろう…というストーリー。情報を制する者が帝王として君臨する、たとえ自分の意思で手足を動かすことすらままならなくても彼は帝王なのだ!
決められた枠内で生きるのは楽だ、だがそれは自由とは言わない。という大沢先生の強いメッセージを感じました。インターネットに頼りがちの現代人に向けた、エンタメという形式をとった警告ですね。やや設定が突飛過ぎる場面が多いような気もしますが、それはエンタメということでいいかと私は思います。なお前作 『B・D・T 掟の街』 未読なので、こちらも近いうちに読まなきゃ。BDTとは作中の造語で 『Boiled Down Town』 煮詰まった暗黒街?というような意味でしょうかね?
評価:(5つ満点)
緑は14歳、子ども以上女未満。初恋はもう少し。話を聞くのが上手なおばあちゃんは自分の夫は失踪中。全く頼りないお母さんはかつて妻子ある男性を愛し緑を出産、その後は緑を連れて実家へ戻りふらふらしている。そんな緑のうちに謎の中年女性が訪ねてくるが。人の縁の不思議さと愛しさを描く。
(西加奈子)1977年テヘラン生まれ大阪育ち。関西大学法学部卒業。『通天閣』 で織田作之助賞受賞。主な著書に 『あおい』 『さくら』 『きいろいゾウ』 『きりこについて』 など。
緑、おばあちゃん、シゲおじさんを刺したムネダさんの奥さん、おかあさん(茜)、従姉の藍ちゃん、その娘の桃ちゃん。不器用な思春期真っ盛りの中学生、緑を取り巻く状況は決して 『普通』 とは言えないけど、それでもいいんじゃないだろうか。幸福幸福と追い求めなくても幸福かもしれないし、そう思えることがもしや幸福なのかもしれないし。のんびりしたストーリーのように見えてその実ショッキングな出来事も用意されており、なかなかな構成上手。でもそういうのもあるよね、と納得してしまう、もしかしてその納得することが幸福なのだろうか?
おかあさんも、藍ちゃんも、桃ちゃんも、そしてみどりもおばあちゃんも。女ばかりの一家もただ幸福なのかもしれない。 『こうふく あかの』 よりは幸福が分かりやすいです。
それにしてもこの 『こうふく あかの』 『こうふく みどりの』 シリーズで描かれているように、アントニオ猪木ってやっぱりスゴイ存在なんだなぁと改めて感心してしまいました(笑)。その影響力が、すごすぎる!
評価:(5つ満点)
世界は無数の前夜に満ちている。ノーマ・ジーンがマリリン・モンローに変わるその前夜。期待と恐怖と孤独がひとつの予感に溶けあったその前夜。記憶や日常についての文章と、言葉や本についての文章をまとめた鬼才 穂村弘のエッセイ集。
(穂村弘)1962年北海道札幌市生まれ。上智大学英文学科卒業。歌人、翻訳家、エッセイスト。『短歌の友人』 で伊藤整文学賞、『楽しい一日』 で短歌研究賞を受賞。主な著書に 『シンジケート』 『短歌という爆弾』 『もうおうちへかえりましょう』 『本当はちがうんだ日記』 など。
トンデモ歌人(笑)ホムラさん。その不器用なホムラさんが女性誌(FRAU)で読者向けにコラムを書いてたなんて…。いやホムラさんの不器用ぶりももしかして演出なのか?
『本の雑誌』 初出のコラムはホムラさんのオタクぶり100%で面白い。それによれば 『驚異、を表現できるから歌人』 だというホムラさんは語る、短い一句に言葉をいかにこめるかが歌人なのだ。そこで 『思いがけない』 言葉同士の組合せが名句を作る、なるほど。言葉のミスマッチがすなわち歌になるのだと言う、コレはいいポイントだ。
『共感と驚異』 の章は必読。こういう文章を高校の現国で読ませればいいのに。読者とは 『小説に共感を求め、詩歌に驚異を求めている』 のだそうだ、なるほど!詩歌に求められているのは、ワンダーなのだ!驚異を求める感覚が最も増大するのは思春期である、だからホムラさんはいつまでも少年の心(※のようにやたら恥ずかしがりで自意識過剰)なんだ!それは歌人 寺山修司もだ!
…としばしまた本書で盛り上がってしまいました。時々詩歌が読みたくなる私の感覚はまだ若い(思春期に近い)ってことなんですね、うんうん。
本書でも紹介されている私の好きな大村陽子氏の一句。ホムラさんと感覚が似ていることが嬉しいやら悲しい(!)やら(笑)。
枕木の数ほどの日を生きてきて愛する人に出会はぬ不思議 大村陽子
さらにいくつ枕木を超えればいいのだらう。ということで本書もオタクのアナタは必読です。
評価:(5つ満点)
高校卒業と同時に平野勇気が放り込まれたのは三重県の山奥にある神去村。チェーンソー片手に山仕事を始めるが、先輩の鉄拳、ダニやヒルの襲来に悩まされる日々。さらに村には秘密があったのだ。厳しい状況に置かれた林業を生業とする村の人々のひたむきさとそこで成長する若者を描く。
(三浦しをん)1976年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。『まほろ駅前多田便利軒』 で直木賞受賞。主な著書に 『しをんのしおり』 『光』 『三四郎はそれから門を出た』 など。
林業という身近でない話題を選んだのがまず面白い。従事する人々が山を、神様を大切にしている様子、本当にあった神隠し、など主人公 勇気が少しずつ山の暮らしを知り村へ溶け込んでくる様子が伝わってくる。三浦しをんはやっぱりこういうYA向けっぽいのがうまいな。
山で生き、山に生かされそれに感謝してる人々の様子、排他的な様子、その村人が徐々によそ者の勇気に心を開いていく様子もいい。やや夢物語過ぎるけどそれもいいでしょう。ヒルやダニや花粉の話、毎日同じ特大おにぎり弁当(たまにコロッケ入り!)などの細かい描写も良かった。
普段街で暮らす私達が知らない林業という世界とそこで暮らす人々について、実によく調べてあると思う。そこの切り口を都会で育った軟弱ナンパ青少年にしたちゃうところがやっぱり、三浦しをんだなぁ。えっとこの本でもBL要素はあったのかなかったのか?(笑)
評価:(5つ満点)
面倒くさいことは放っておくと雪だるま式に増えてしまう。そうならないための逆転の発想術とは? 面倒くさがりやの人のための55の法則を考え方/日常生活/仕事に分けて紹介。55の項目をチェックすれば面倒くさがりやでも人生困らない?
(本田直之)サンダーバード国際経営大学院経営学修士修得。レバレッジコンサルティング代表取締役社長兼CEO。日本ファイナンシャルアカデミー取締役。主な著書に 『レバレッジ時間術』 『なまけもののあなたがうまくいく57の法則』 『「デキる人」の脳 読むだけでこの効果!』 など。
面倒くさがりなんですよ、私。という人は非常に多いと思われます。だからこういう題の本を出すと売れるだろう、という目測は非常にアタリだと思われます。ということで私も図書館で借りました(つまり買ってないけど、笑)。
九九を覚えておくと後々一生楽なように、面倒くさがりはその面倒を回避するため少しの面倒をやっておくべきという指南書、その考え方は確かになるほど的なところが非常に多いです。例えば予約できるモノは全て予約する。レストラン、映画、なんでも。それがスケジューリングになる>慌てずにすむ>よりよいサービスが受けられることにつながる、とのこと。全くだわ…。で私がチェックした項目は以下です。
やる気を下げない
結局損するのは自分だけ。やる気は維持するよう心がける。
変えられないものに執着しない
渋滞などは自分の力ではどうにもできない、それに対してイライラしない。その時間をいかに有効活用すべきかを考える。
評価:(5つ満点)
警察庁キャリアでありながら息子の不祥事で大森署署長に左遷された竜崎伸也。相変わらずの変人署長として日々の任務に当たっているが異例の抜擢で米大統領訪日の方面警備本部長の任を受ける。上層部の陰謀を疑う彼の元に飛び込んできたのは大統領専用機の到着する羽田空港でのテロ情報だった。警視庁から派遣されてきた美貌の女性キャリア、空港封鎖を主張する米シークレットサービス、情報が入り乱れる警備本部で竜崎の決断は。隠蔽捜査シリーズ第3作。
(今野敏)1955年北海道生まれ。上智大学卒業。『怪物が街にやってくる』 で問題小説新人賞を受賞しデビュー。『隠蔽捜査』 で吉川英治文学新人賞、『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を受賞。TBSドラマ 『ハンチョウ~神南署安積班~』 の原作シリーズなど著書多数。
変人警察キャリア(笑)の竜崎がまたまた帰ってきました。そして今回彼が悩むのは…なんと 『恋心』 !歩く唐変木その竜崎が恋、しかも片思い!40男の純情が描かれていてちょっと怖いです(笑)。しかもその持て余した恋心を禅問答で乗り越えちゃう辺り、やっぱり相当の変人ぶりです(笑)。ちなみに雑誌連載時は 『乱雲』 という題だったそうで、単行本化にあたり改題されたそうですが、どっちかと言えば 『乱心』 じゃないでしょうかね?(笑)
竜崎が惚れてしまう警察庁美人キャリアや竜崎を 『シンヤ』 と呼びたがる(フレンドリー、笑)アメリカのシークレットサービス、そして今回もはみ出しノンキャリ刑事 戸高が大活躍です。竜崎と戸高のコンビはまだまだ続きます。今回の恋愛経験により竜崎自身、また伊丹や戸高との関係が今後どう変わっていくかも楽しみです。今回はやや平凡だったので次回のシリーズ新作には期待してます。
評価:(5つ満点)
1984年東京。スポーツインストラクターでありながら裏の顔を持つ青豆(あおまめ)と予備校で数学の講師をしながら小説家を目指す天吾。それぞれが孤独を抱えながらも交わらない世界に生きていたはずの2人が再び交わる時、世界は変化を遂げる。『こうであったかもしれない』 過去がその暗い鏡に浮かび上がらせるのは 『そうではなかったかもしれない』 現在の姿だ。書き下ろし。
(村上春樹)1949年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。ジャズ喫茶の経営を経て作家へ。1987年 『ノルウェイの森』 のベストセラーをきっかけにブームが起き現在も国民的支持を集める作家の1人。国内のみならず海外の多数の文学賞も受賞、ノーベル文学賞の有力候補と見なされている。『風の歌を聴け』 で群像新人文学賞、『羊をめぐる冒険』で野間文芸新人賞、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』で谷崎潤一郎賞、『ねじまき鳥クロニクル』で読売文学賞、『約束された場所で―underground 2』で桑原武夫学芸賞を受賞。また朝日賞、早稲田大学坪内逍遥大賞、フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、世界幻想文学大賞、エルサレム賞などの海外の文学賞を受賞。翻訳多数。
村上春樹の長編を初めて読みました。ブームに乗ったのか?と思われるとちょっと心外なので言い訳をしますと、母が村上春樹ファンなのでまずこの本を買って母に送りました。私は母が読み終わったら貸してもらおうと思ったわけです。ところが母に買ったその直後位に珍しく夫がこの本を買ってきてくれて私にくれました。本など読まぬ夫は内容も全く知らず買ってきたようでちょっとおかしかったですが…。ともあれ手元に来たので読まないと。ということで私の 『1Q84』 が始まったわけです。
一言で言って(言えないですが) 『目に見えていることが真実とは限らない』 という物語です。真実とは何か。これは正義とは何か、ということとも通じます。真実とはその人自身の判断によってしか存在し得ないものなのだ。だから月が空に2つ浮かんでいようがそれが見えている真実ならば、それが世界の真実だということなのだ。という物語です。
は?ますます意味不明?そうですね…私も書いててちょっと意味不明です。しかし世界とは人の集合体であり、人が皆ひとりひとり考えが違うようにその世界に対する考えも異なり、その結果世界は様々な形で存在しているのだろうということなのです。え?またドツボにはまってないかって?そうですね…。
他の方々の書評を見ているとますます分からなくなりそうなのでとりあえず今はまだあまり読まないようにしていますが、もちろんこの本で村上氏が言いたいのは狂信団体の擁護でもないし、詐欺行為の擁護でもないし、正義を振りかざして殺人を行う行為への擁護でも、いずれでもありません。それは言わずもがなです。ただ真実とは人の数だけあり、世界の在り方も同様に人の数だけある。その中で私達がどこまで、どれだけ、お互いを認め合い共に生きていく努力をし続けなければならないか。その努力は決して終わることはない、ということを村上氏は言っているのだと私は思っています。人の世界(観)を否定する権利など誰にもないのだ、ということなのです。
日本語が読める日本人であるならばやはり読まないと、村上春樹。と思いました。青豆と天吾を結ぶ、ふかえりという少女の存在。彼女の存在を疎ましく思うか愛しく思うか、が読了感の分かれ目でしょうか。Book 2(下巻)で完結とも未完とも取れる本作、私個人としては続巻を期待しています。
評価:(5つ満点)