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DaisyAKM Archives

読書と映画と観劇と

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贖罪*湊かなえ

shokuzai.jpgのどかな田舎町の小学校で起きた惨たらしい美少女殺害事件。犯人と言葉を交わしながらどうしても犯人の男の顔を思い出せない4人の少女たちに投げつけられた激情の言葉が、彼女たちの運命を大きく狂わせる。15年の時効を目前に4人の目撃者と被害者の母親につきつけられたそれぞれの 『贖罪』 を問う。
 (湊かなえ)1973年広島県生まれ。武庫川女子大学家政学部卒業。『告白』 で小説推理新人賞を受賞しデビュー。他の著書に 『少女』 。

2010年初の☆5点ですね、 『告白』 で衝撃を受けた湊かなえ、 『少女』 はややイマイチだった分この 『贖罪』 でかなり盛り返してきました。今回もすごいレベルのクライム・ノベル。

湊作品の怖さはいずれも 『女』 が遭遇する 『罪』 を正面切って押し出してくるところですね…事件に巻き込まれた4人の少女ら、それぞれの性格の違いもそこから生まれるそれぞれの成長過程>生きづらさも、見事に描いています。そう、今最も描くべき主題はこの 『生きづらさ』 じゃないかな。なぜ生きづらいのか、多くの人が生きづらいと感じるのか。

それは人と人との関係があまりにも表面だけになっていて、そしてそれぞれが余りに利己的だからではないか。4人の少女らの事件後を見ていても、家庭の庇護が十分だったか?でも母親ら家族ももちろん子ども達を大切に思いきちんと教育しようとしていたことは間違いない、それも足立麻子の章に書かれている。それでもなおこういう悲劇が連鎖して起こる訳は…うーん怖いです。タイトルの贖罪、誰の贖罪か。エミリを救えなかった4人の少女か、同じく救えなかった母 麻子か、それとも…。

全く皆目見当つかなかった犯人像が4人の少女らの証言から徐々に輪郭を帯びてくる描写がもう、巧いなんてもんじゃないです。一気に読み切ってフーっとため息ついてしまう、本格ミステリってこういうのを言うんだなと改めてしみじみしました。  『告白』 より更にバージョンアップした湊かなえをぜひご一読ください。

評価:(満点!)

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魔女の宅急便その6*角野栄子

majo6.jpgそれぞれの旅立ち
長年の恋を実らせとんぼさんと結婚したキキ。今では双子の子どもニニとトトも11歳に。お母さんになったキキ、お父さんになったとんぼさん、そして魔女になるかどうかを迷っているニニと、男の子という理由だけで魔女になれないトト。それぞれに旅立ちを迎える。シリーズ完結。
(角野栄子)1935年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒。25才の時にブラジルに2年間滞在。『ズボン船長さんの話』 で旺文社児童文学賞、『おおどろぼうブラブラ氏』 で産経児童出版文化賞大賞、『魔女の宅急便』 で野間児童文芸賞、小学館文学賞他を受賞。

ついに長年続いた本シリーズ完結!ということで一応読まねば。おてんばで無鉄砲な魔女娘キキも30代のおかあさんに。すっかり落ち着いちゃってあんまりキキらしさを感じられなかったけど、今回の主人公はニニとトトだからいいのでしょうか。

現代っ子のニニと寡黙で内向的なトトを描いてますが、ニニの描写がちょっとイマイチかな、現代っ子らしいニニならではの悩み方をもう少し描いて欲しかったけど。その点はトトの方がよく描かれていて主人公の比率としてはトト:ニニ:キキが6:3:1。この本を単独で読んでもかなり分かりにくいのでは、というのが難点でしょうか。

それにしてもどうして男の子は魔女になれないんだろう?トトじゃなくても不公平だと思いますし、不思議な理由ですね。でもこういう風に 『そういうものなのだ』 というのがやはり、魔女的な思想なのかもしれない。と読後しばらくして思いました。

評価:(長いシリーズ物を読破したい小学生に)

コスモスのゆくえ*乃南アサ

yomyom13.jpg心配症の芭子(はこ)と能天気な綾香。一回りも年の違う仲の良い友人である2人には、他人に言えない過去があった。ペット服製作とパン職人というそれぞれの仕事でも順調に歩んでいる二人の前に、夫のDVに苦しむ女が現れるが。世間の目に怯えつつもいつかは自分たちも陽のあたる場所で生きて行きたいと人生を模索する、刑務所帰りの2人を描く 『いつか陽のあたる場所で』 続編。yomyom13号掲載。
(乃南アサ)のなみあさ。1960年東京都生まれ。早稲田大学中退。広告代理店勤務等を経て作家活動に入る。『幸福な朝食』 で日本推理サスペンス大賞優秀作、『凍える牙』 で直木賞を受賞。主な著書に 『涙』 『鍵』 『しゃぼん玉』 など。


yomyomでこれだけは見逃せないシリーズ。別に派手な事件が起こるわけでもないし、ノンキ者の綾さんと心配性の芭子ちゃんの、何でもない日常なんだけど、そこがまたぐっと惹きつける何かがあるんだなぁ…こういう小説を書ける人になりたいものです。

2人は行きつけの飲み屋でアルバイトを始めたある主婦と親しくなる。可愛らしい外見とうらはらに案外ずうずうしい彼女、たおやかに見えて案外根強い、『コスモス』 というアダナを付けてややうっとおしがってはいても仲良く付き合ってきたのだが…。大人になってからの友達って、子どもの頃に比べるとちょっとだけ難しい。お互いの家庭環境や経済事情といったことが絡み合って気を遣ったり遣われたり。子どもの頃は思ったことをそのまま伝えられたのに、大人になるとそれができなかったり。

コスモスが夫のDVに苦しんでいることを知った2人、特に綾香はそれが原因で服役まですることになったためにその心情は…とこちらもハラハラするものの、結局2人は当人が決めること、と一線を置くことを決める。周囲が助けたくても助けられない、だからDVは根が深いのですね。少しずつ自立してきた芭子と綾香にも世間とのつながりができてきて嬉しい反面、やはり思うように行かないことは多く、2人と共にまた溜め息をつきながらも、今日も生きていくのであります。

評価:(そろそろ単行本2作目?)

ドキュメント高校中退*青砥恭

kokotyutai.jpg高校中退者のほとんどは日本社会の最下層で生きる若者達である。いま貧しい家庭から更なる貧困が再生産されている。この貧困スパイラルを解く方法はないのか。元高校教諭である著者が高校中退の現実と背景を貧困問題と共に論じる。 
(青砥恭)1948年松江市生まれ。明治大学法学部卒業。元埼玉県立高校教諭。関東学院大学法学部講師(非常勤)。『子育てと教育を語る会』 代表。

あちこちで紹介されている書評を見るにつけやっぱり読みたくなり、2010初新書購入。最初からたくさんの統計データを提示してくれるのはとてもよいのですが、若干グラフが分かりにくいと言いますかグラフそのものの見せ方・まとめ方にもう少し工夫が欲しかったですね。どれとどれのデータ比較なのかイマイチよく分からない。グラフはやはり見やすい>分かりやすい、が最重要ポイントです。

高校中退。それは貧困のスパイラルを生んでいるという著者の説。大きくうなづける部分もありながら、果たして自立のために本当に高卒資格が必須なのだろうか?という疑問もやはり否めません。だとしたら今の世の中の方がやっぱりおかしくなったのではないだろうか?知識を得るためではなく生きる術を身に付けるための高校教育とは?

著者は 『進学校と底辺校では同じ高校というくくりでは捉えられないほどその性質が違いすぎる。全く別の種類の学校と言っていい位だ』 と。進学指導(学習)メインと生活指導メイン。それは確かに違いすぎる…そして磨り減っていく底辺校の教師達。それよりも、親も中退、子も中退の家庭が繰り返す貧困スパイラルの現実。学習どころか生活習慣のしつけもできない、というより知らない(!)親達が続出している今、社会は終末期を迎えつつあるのかもしれない。この不公平はどうにもならないものなのか? 『教育が国を救う』 という意見には大いに賛成だが、果たして今のままの体制、教育でいいのだろうか?

最近こういうことを考えれば考えるほど 『生きる力』 とは何なのか、分からなくなってきました。 『生きる力』って自分の力で見つけるものなのですが、現代ではそれすらも皆自力でできなくなっているということかもしれない。それはすなわち 『生きる力』 が育たない現状となっているわけだ。ううう…。

親として、現代社会を生きる1人の社会人として、考えさせられる、考えねばならない課題です。

評価:(5つ満点)

ドミノ*恩田陸

domino.jpg迫りくるタイムリミット、もつれあう28人のマトリクス。必死の思いでかけまわる人々が入り乱れぶつかりあって倒れ始めたドミノは、もう誰にも止められない。東京駅を舞台にそれぞれのリミットに向けて駆け回る人々を描く群像劇。
(恩田陸)1964年宮城県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。『夜のピクニック』 で吉川英治文学新人賞、本屋大賞、『ユージニア』 で日本推理作家協会賞、『中庭の出来事』 で山本周五郎賞を受賞。 主な著書に 『木曜組曲』 『図書室の海』 『チョコレートコスモス』 など。

ドミノ、というよりパズルみたいな話。たまにこういうドタバタ喜劇を読むのも気分転換にいいかもしれません。恩田陸は 『六番目の小夜子』 を読んだきり遠ざかっておりましたが、読まず嫌いをしないでもうちょっと読んでみることにします。これは小説というよりマンガのような設定と展開とノリで楽しめました。

ちょうど読了中に東京駅に行っていたし、この通路をバイクが疾走ねぇ、そりゃムリだな(苦笑)。と思ったり。それにしても8000ccのバイクってどんなんかしらねー大きさも値段も全く想像つかないな。元暴走族が 『お時間ピッタリ!』 の宅配ピザ屋やってるっていうのもいいですね。

中編小説の、群像小説の、主人公(一人称)28人という常識破りの手法を見事にクリアした話題作。新しいエンタメの手法ですね。

評価:(5つ満点)

風が強く吹いている*三浦しをん

kazega.jpgかつて高校でそれぞれ陸上界の寵児と言われていた灰二と走。事故と事件というそれぞれの理由から陸上を諦めかけていた2人が、奇跡のような出会いから無謀にも陸上とかけ離れていた者たちと箱根駅伝に挑む。それぞれの頂上を目指して箱根への挑戦が始まった。長距離を走ることは二人にとって生きるに等しいことなのだ。長距離選手にとって必要な真の 『強さ』 を謳いあげた、直球の青春小説。
(三浦しをん)1976年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。『まほろ駅前多田便利軒』 で直木賞受賞。主な著書に 『秘密の花園』 『光』 『三四郎はそれから門を出た』 など。

箱根駅伝が始まってしまいました!これを読んでいる最中にも5区 山登り区間では東洋大 柏原選手が今年も力走快走中!ゴボウ抜きであっという間に順位を繰り上げてきました。こんなの見せられちゃー余計に本を読む手にも力が入ります(笑)。恐るべし箱根の山とその山を登る選手達、よくあんな勾配のところを登って下って、それも走りながら行くもんだ。

本作は、しをんちゃんお得意のBLモノ、これはもう間違いなくBL。心に傷を持つ青年らが集い、共同生活をしながら共に同じ目標に向かって突き進む…うーんいいですね。YA向けとされている本書ですが、むしろくたびれかけた私達中年以降が読むのにふさわしいのではないでしょうか(笑)。原作は映画では省いていた一人一人のバックボーンを丁寧に描いており、楽しめました。映画では割愛されていた個々のいさかいなどもあります、うーんそうだったのか。恋愛模様の描き方では原作はちょっと複雑ですが映画では上手に設定を変えており、映画の出来の良さも改めて確認できて良かったですね。

毎年箱根駅伝を見るたびに、走の、灰二の、神童の、ユキの、みんなの力走を思い出し楽しめることでしょう。原作、映画共に 『努力なんてムダ』 と思っているスネた大人のアナタに、強力オススメです(笑)。

評価:(5つ満点)

凍土の密約*今野敏

toudo.jpg赤坂で殺人事件が発生する。被害者は右翼団体に所属する男。さらに次々と関連すると思われる殺人事件が起きるが。警視庁公安部の倉島は上層部からの命令で捜査本部に出向くが各事案の関連性をなかなか見いだせないでいた。分かっていることは殺人者はプロ、鍵はロシアだということ。倉島は仲間と共に意地と誇りをかけて敵に挑む。
(今野敏)1955年北海道生まれ。上智大学卒業。『怪物が街にやってくる』 で問題小説新人賞を受賞しデビュー。『隠蔽捜査』 で吉川英治文学新人賞、『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を受賞。TBSドラマ 『ハンチョウ~神南署安積班~』 の原作シリーズなど著書多数。


読み始めて知りましたが、コレは公安VSロシアシリーズの3冊目だそうです、前2作での倉島の活躍が諸所に出てきますが未読でも大丈夫です。タイトル通り何やら北の地での密約なるものがキーなのですが、それも大昔の約束でして。公安のお仕事というのは本当にこんなにたくさんあり、公安刑事一人ひとりが同僚にも内緒のハト(情報提供者)を持たなくちゃいけなくて、その人達の身の安全も考えてあげなくちゃいけなくて、と考えただけでもうー大変。007みたいにハラハラドキドキ、楽しそうじゃ全然ないですもん。

大抵の刑事物では公安刑事は嫌われ者なのですが、その公安刑事を主役に据えている本作では彼らの苦労も十分伝わってきますね、他の刑事課の皆さんに嫌われちゃうワケも、そうせざるを得ない状況も。

さて本題の密約、そこまで過去にこだわるのはどうなのか…とも思いますが、国の利権のためであれば命をかけてそれを成し遂げようとする、それが愛国心というか自分の使命だと強く信じていれば、人はその道を邁進してしまうのでしょうね。うーんスパイって立派だわ。颯爽と活躍する安積ハンチョウシリーズよりも、案外小さいことでもクヨクヨ悩んでいる、ごく普通の刑事達(とはいえ倉島もエリートですな)の話の方が、親しみを持って楽しめますね。

評価:(5つ満点)

カデナ*池澤夏樹

kadena.jpgベトナム戦争末期。軍属として働くフィリピンとアメリカのハーフのジェイン、サイパン移植中に戦禍に遭った朝栄、基地内でバンド活動をするタカ。沖縄カデナ基地の中と外を結んで巨大な米軍への抵抗を試みた小さなスパイ組織があった。著者の10年に及ぶ沖縄での経験と思索のすべてを注いだ長篇。『新潮』 連載を単行本化。
(池澤夏樹)1945年北海道帯広市生まれ。都立富士高校卒業、埼玉大学中退。詩人、翻訳家、小説家。翻訳はギリシア現代詩からアメリカ現代小説など幅広く手がけている。 『スティル・ライフ』 で中央公論新人賞、第98回芥川賞、『マシアス・ギリの失脚』 で谷崎潤一郎賞、 『花を運ぶ妹』 で毎日出版文化賞を受賞。主な著書に 『キップをなくして』 『静かな大地』 『きみのためのバラ』 など。

池澤氏渾身の作。年末にこんなヒットに出会えるとは。と忙しい中必死に読み進めました。物語はジェイン、朝栄、タカ、三人のそれぞれ一人称の章が入れ替わり進みます。沖縄における米軍基地という異形の存在に対するそれぞれの思い。軍属であるジェイン、沖縄からサイパン移植後戦禍から逃れてきた朝栄、そして若いタカ。それぞれの立場、信念、そして行動を見事に描ききっています。

本当に池澤作品は小説として破綻がないことはもちろん、ここまで異なる立場の人物らをそれぞれ一人称で語らせて見事に書き分けていることに、感動を覚えます。もちろんそれが小説というものなのですが、たまに中途半端な群像劇を読むにつけこうした見事な小説が一方に存在することに改めて感動を覚えてしまうのです。

ちょうど沖縄普天間基地の移設問題が上がっている昨今、沖縄における米軍基地の存在意義について考えさせられました。基地に対する思いは決して一言では言い表せない、本当に複雑な事情がそこにあります。自分の行動が人の命を救うことになる。と言われたら貴方はどうするか。を正面から問う作品であると同時に、正義とは信念とは何か、を問われる作品です。

評価:(5つ満点)

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名前:
DaisyAKM/菜摘
年齢:
53歳
誕生日:
1972/02/16
職業:
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