吉原の遊女 朝霧は残り数年で年季を終えて吉原を出て行くはずだった、その男に出会うまでは。生まれて初めて男を愛した朝霧の悲恋を描く受賞作ほか、吉原を舞台に遊女達の叶わぬ恋を綴った連作短編集。第5回女による女のためのR-18文学賞大賞、読者賞同時受賞。単行本に書き下ろしを加えて文庫化。
(宮木あや子)1976年神奈川県生まれ。 『花宵道中』 で 『女による女のためのR-18文学賞』 大賞と読者賞を同時受賞しデビュー。 主な著書に 『白蝶花』 『セレモニー黒真珠』 『群青』 など。
(収録作品)花宵道中/薄羽蜉蝣/青花牡丹/十六夜時雨/雪紐観音/大門切手
書き下ろし章 『大門切手』 を読むために再読。本作は宮木のデビュー作であり、改めてその秀作ぶりを堪能いたしました。でもせっかくの書き下ろし 『大門切手』 はやや蛇足感も…。続きが読みたいものとしてはやっぱり、その後の緑の物語ですかね。
解説は嶽本野ばら氏でこれがまたぶっ飛んでいてオススメです。爆笑できます。
評価:(5つ満点)
レトロな下宿に暮らす奇妙な人々。青春と恋の始まりのはずだったのに。真綿荘に集う人々の恋はどこかいびつで滑稽で切ない。不器用な恋人達、不道徳な純愛など様々な愛情の形を描く。『別冊文藝春秋』 掲載を単行本化。
(島本理生)1983年東京生まれ。立教大学文学部中退。『シルエット』 で第44回群像新人文学賞優秀作、『リトル・バイ・リトル』 で第25回野間文芸新人賞を受賞。主な著書に 『生まれる森』 『ナラタージュ』 『大きな熊が来る前に、おやすみ。』 など。
(収録作品)青少年のための手引き/清潔な視線/シスター/海へむかう魚たち/押し入れの傍観者/真綿荘の恋人
正直2章を読み終わって、何で今更島本氏がこんな群像劇を書くんだろう?と思ってしまいました。ありふれた、自信過剰な大学生になりたての少年と、ありふれた女性しか愛せない、それもうまく愛せない20代後半の女と、何も島本氏が書かなくても?
段々に一癖も二癖もある住人らのバックボーンが見えてきて、人と人との関わり合いのありようについて書きたかったのだと分かりますが…正直押し入れ → 真綿荘の展開は、唐突過ぎやしないか?むしろ複雑な千鶴の背景を最初から丁寧に綴った方が良かったのでは?と感じてしまいました。
瀬名さんと千鶴の複雑な愛情がラストまでイマイチ伝わらない。大和くんの成長もくじらちゃんの成長もかなり加速度が付いていてちょっと納得できない。連作なのにつながっていないというか、私の読みが浅いのでしょうが。人物らに愛情もあまり感じられず、読後感が悪くないだけに何かもう一つパンチが欲しかった気がしてもったいないような気ばかりしてしまいます。
もう1回読めば違うかもしれません。
評価:(5つ満点)
畑を耕すわけでもナチュラルライフでもないけれど。てくてく歩けば毎日がキラキラ。田舎暮らしを選んだ早川さんの家に、週末毎に訪れる都会暮らしを選んだマユミちゃん、せっちゃん。森を歩くとそれだけで気持ちが清々しくなるのはなぜなんだろう。
(益田ミリ)1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に 『すーちゃん』 『結婚しなくていいですか。』 『上京十年』 など。
早川さん、マユミちゃん、せっちゃん。都会でOLを続ける2人は結構日常生活でイライラしていて、うんうん分かるという感じ。そのイライラを早川さんの住む田舎(森)で毎回浄化していく、というストーリー。早川さんが翻訳家として自立しており、その他にも 『生活の足し』 として家庭教師や着付けをしているところもいいですね、そう足しについて考えておくことは常に必要です、自立してる早川さんはエライ。
イライラすることは考えようだ、とも言えるけどひとところにいるとなかなかそうした考えの切り替えってできないものです。マユミちゃん、せっちゃんのように早川さんのうち(森)がある人は、羨ましいなぁ。
評価:(5つ満点)
マンガ家 吾妻ひでおの体験を描いたノンフィクションマンガ。仕事を放りだし野外生活をしていた 『夜を歩く』、再びホームレスとなり配管工として働いていた 『街を歩く』 、アル中で入院した前後を描いた 『アル中病棟』 。いずれも家族に迷惑かけっぱなしの吾妻氏のセキララな日々を描く、セキララすぎる。
(吾妻ひでお)1950年北海道生まれ。『失踪日記』 で日本漫画家協会賞大賞、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、手塚治虫文化賞マンガ大賞、日本SF大会星雲賞ノンフィクション部門を受賞。不条理、SFマンガからロリコンマンガまで執筆。
(収録作品)夜を歩く/街を歩く/アル中病棟
読みたいとずっと思っていた本書をついに読了。ホームレスしたりガス会社の下請け会社で働いたりアル中で入院したり。それをネタとして供出する吾妻先生スゴイ…じゃなくて奥さんがスゴイ!エライ!秋田書店メインの吾妻先生は手塚先生との絡みなどもありそちらでも楽しめます。
先生は完全にうつ病と思いますが、そうなってしまう原因は手抜きができないこと。マンガもすごく力を入れて各コマ丁寧に描いてしまうそうで時間がかかる。見てみると確かにそう、丁寧な背景にコマ割り。背景もないテキトーな最近のコミックエッセイ(失礼)を見ていると、吾妻さんもテキトーにしたら良かったのに…とそれができていればここまで行かないですね。
ホームレスにになってもガス会社でガテン仕事してもアル中で入院しても、やっぱり生活の重点を占めるのは人間関係。すごいところばかりだけどそこでもガマンして居続ける?吾妻さん。だから悪くなるんじゃ?
世の中はまだまだ広く、知らない世界がいっぱいあることを知ることができる、一冊です。
評価:(5つ満点)
一般にお嬢さまと呼ばれる人々の会話を分析し実践を第一に簡単で使用頻度の高い順にお嬢さまことばを紹介。読んで笑いながら自然にお嬢さまことばが移ってしまう困った本。97年出版の愛蔵版を組み替えた新装版。
(加藤えみ子)桑沢デザイン研究所インテリア住宅専攻科卒業。インテリアデザイナー。空間構造代表取締役。主な著書に 『上質生活 品格ある暮らしのルール』 『気品のルール』 『和のルール』 など。
速修、すなわち付け焼き刃ではありますが、お嬢さま言葉を修得したい人のための実践集。と紹介されている記事を切抜き、早速図書館から借りました(やっぱり買わない、笑)。
ことのて、の結び、わたくしと 『さま』 の掟、丁寧な肯定とあいまいな否定、大げさな褒め言葉と婉曲的な言い回し、などナルホドと思う丁寧な観察力が面白いです。
ことのて、というのは
『~ですこと?』 とか 『~ですの。』 とか『~ですって。』 とか語尾に付けると、一気にお嬢さまらしくなるということ、だそうです。
自分のことは 『わたくし』 と言い、お友達も 『ヒカルさま』 とか 『ノリカさま』 とか、 『さま』 を付けて呼びかけましょう。ってどこの世界の言葉だ!?と盛り上がり、肯定はとにかく丁寧にしつこく、そして否定は実にあいまいにすること。
『いやです』 → 『よく考えておきますわ』
と言い変える。つまりお嬢さまに 『よく考えておきますわ』 と言われたらすなわちそれは否定と受け止めよ、だそうです。あと 『さあどうだったかしら』 とか 『よく分からないけど』 もほぼ同様の意味だそうです。
確かにこういういい方をするマダムを知ってます…あれは否定だったのか(汗)。
褒めるときは大げさに、どうしてもけなさなくてはならないときは婉曲に、も鉄則。婉曲にけなされたらそれは、お嬢さまからの最大の攻撃と心得よ。ですね。
その他にはよく使われるお嬢さま的言い回しも載っていて、それをまず駆使することから始めましょうとあります。 『よろしくってよ』 といつも使われている方が身近にいますね、やはりこの方はお嬢様だったわ。
そして極めつけは、コーヒーではなくお紅茶を召し上がるのが、お嬢さまでございます。なぜなら紅茶は 『お紅茶』 と言えますが、コーヒーは 『おコーヒー』 とは注文できないからで、ございます!だそうですよ。
実践できそうですか?さあどうだったかしら。忘れてしまいましたわ(爆)。
お嬢さまを目指す、すべての美しい女性の皆様へオススメします。
評価:(5つ満点)
子どもに本の愉しみをと願うすべての大人の出発点となるテキスト。絵本はどのように子どもの成長に働きかけるか、よい絵本の条件とは何か。また絵本の読み聞かせについての基本的な知識をまとめた、読み聞かせをする人全てに対する入門書。
(松岡享子)1935年兵庫県神戸市生まれ。神戸女学院大学英文科、慶応義塾大学図書館学科卒業。1961年渡米、ウェスタンミシガン大学大学院で児童図書館学専攻、ボルチモア市立イーノック・ブラット公共図書館に勤務。帰国後、大阪市立中央図書館勤務を経て自宅で家庭文庫を開き児童文学の翻訳、創作、研究を続ける。1974年財団法人東京子ども図書館を設立、現在同理事長。主な著書に 『お話を子どもに』 『お話を語る』 『昔話絵本を考える』 など。翻訳多数。
数年前に松岡先生がうちの会の勉強会の講師として来てくださったときに買った本書。ようやく読了です…すみません先生。もちろんサイン本ですよ。
今更読み返し始めたのは、今年の春から第2王子の小学校で朝の読み聞かせ活動を始めたのがきっかけです。改めて絵本を子どもに読むこととはどういうことか、振り返るよい機会となりました。
本書では松岡先生が師と仰ぐ、セイヤーズ氏の言葉が沢山出てきます。
お話を語ることは、文学に対して額縁が絵に対して果たすのと同じ役割を果たします(セイヤーズ)
読み手は本にとって額縁のような存在である。肝心なことは絵であって額縁ではないように、大事なのは物語であって読み方ではない、ということ。絵にふさわしい額縁が絵の美しさを一層引き立てるように、物語にふさわしい読み方が物語の面白さを一段と強める。本当によい読み方というのは、読み終わった時物語の世界が聞いた子の心に残る読み方を言う。そういう絵本や本を選んで読んでやりたい。
この言葉は私の中でも一大革命となりました。そう、読み手はあくまでも 『額縁』 であって、額縁は額縁以上であっても以下であってもいけないというわけです。ではどうしたら読み手は額縁になり得るか。
まず虚心に絵を読むことから絵本読みを始めましょう、と松岡先生。絵本選びの3つの柱として、先生の提言は以下の通りです。
【三本の足】
1) 絵でお話の筋がたどれるか、正確な絵か、美的満足を与えるか(人により評価が異なる)
2) 古典との比較
3) できるだけ虚心に子どもが絵本を読む時の心に近づいて読む
まずは絵本の絵のみで物語が読み取れるかを見てみる。この時大勢に読み聞かせるときは絵の大きさ、遠目が効くかどうか、などもチェックするといいですよね。美的満足、というのは人により感じ方が異なるので難しいですが、とりあえずは読み手の判断に任せてもらうしかないですね。
また、長年読み継がれてきたベストセラーである25歳以上の絵本をより多く読み、こうした優れた絵本に数多く接することで、読み手である自分自身に絵本選びの1つの基準を作ることが大切だそうです。自分の中にこれは良いもの、これはちょっと、という価値基準を育てること。迷った時にすぐに聞ける仲間がいるのもいいですが、やはり自分自身に少しずつこの力が備わって行ければ一番いいですね。
ストーリーテリングサークルKFに入会して、一番嬉しかったのは、自分の選ぶよい絵本、みんなに勧めたいと思った絵本の基準が会のみんなと同じだと感じられるようになったこと、ですね。もちろんまだまだなんですけど。月刊絵本こどものともで、これはいい!と思った本を、他のメンバーも例会に持ってきて勧めてくれたりすると、自分の選書眼が間違っていなかったことがよく分かり、本当に自信につながります。思い上がりはいけませんが、自分がいいと思ったものを仲間もいいと思っていた、という事実は、本当に嬉しいものです。
松岡先生はこうも言っています。しかし子どもは一人一人違うもの。その子らしさを大切にすること、。子どもの中にある良い物に手を伸ばそうとする力、良い本の中にある子どもに訴えかける力を信じ、選書をすること。
自分がこの本は…と思っていても子ども達にはとても喜ばれる本もある。子ども達に教えられる本もたくさんあるのです。その出会いを大切にする、したいと思う心が、また自分を育ててくれるのです。
松岡先生が引用されている、印象深い言葉。
子ども時代とは、『人生の重みを引きずらないで生き…人生の幸福の最もよい分け前をまず受け取るべき』 時代(ポール・アザール)
全くその通りです。幸せな子ども時代を育った人は、大人になっていくつかの困難に出会っても、きっと乗り越えていけると私も信じています。そのためには子ども時代が幸せであったこと、誕生日やクリスマスが待ち遠しいこと、などがまさに 『生きる力』 として必須なのだと、信じています。小中学校における読み聞かせの時間が、少しでも子ども達の 『幸せな子ども時代』 の形成に役立てば、とすべての読み聞かせボランティアが思っていると信じているのです。
本書では昔話についても触れています。
【昔話】
知っている、から楽しめる。はっきり、目に見えるように描く。内にあるもの(感情)も外に表れたところをとらえて表現する。
のが昔話の特徴だそうです。
知らない、から面白い。
知っている、から面白い。
この2種類の面白い、を私達は常に日常生活の中で感じているはずなのですが、どうも最近は 『知らない、から面白い』 ばかりが注目されているように思えます。ワイドショーの過激な報道しかり、ですね。でも 『知っている、から面白い』 ことも沢山あるんです。昔話はその代表的なものです。またその手法は目に見えないものをハッキリと表現しているものが多いため(口承伝承のため)、語られてこそ楽しめるもの、が当然ながら多いのです。昔話がストーリーテリングの王道であることは言うまでもありません。
毎日の活動となっている朝の読み聞かせ活動。時に振り返り自分自身が語り手として成長し続けているか、問い直すためにも時々は本書を開いてみたいと思っています。迷ったときに心に響く、松岡先生の言葉がたくさん詰まっています。
評価:(5つ満点)