日本をむしばむ 『貧困』 が60分で見えてくる。どんなに働いても収入が増えず人間らしい生活を送れない人が増えている日本。その貧困の現状と貧困を生み出す社会の仕組みを解説するとともにこれから世の中に出る若者が考えるべきことを説く。
(宇都宮健児)1946年愛媛県生まれ。東京大学法学部中退。弁護士。日弁連多重債務対策本部本部長代行、反貧困ネットワーク代表、年越し派遣村名誉村長などを務める。主な著書、共著に 『反貧困-半生の記』 『反貧困の学校 貧困をどう伝えるか、どう学ぶか』 『派遣村 何が問われているのか』 など。
著者である弁護士の宇都宮先生は、反貧困ネットワークの活動の一環として、現在東大で貧困を伝える講義をなさっているそうです。東大という最高学府にいる学生達ですら、毎回の授業で貧困の実態に驚くばかりだそうです。何でも知っていそうな東大生でも知らない、日本の貧困の現実とは。
貧困とは:人間らしい暮らしができない状態
を指す。と本書にあります。人間らしい暮らし、これは憲法にも保障されている基本的人権ですね。そして、
相対的貧困:その社会のメンバーとして生きて行くのが困難な状態
この 『相対的貧困』 という言葉が一番のキーワードです。 『絶対的貧困』 が今日食べる米がない、という真に切迫した状態であるのに対し、相対的貧困は 『その社会に於いて普通に生活するのが困難な状態』 だそう。と書くとややこしいですが、本書の例としてこうありました。
靴がない、というのは貧困だが、周囲の人も靴をもっておらず裸足で生活している社会であれば、靴は必要がないとも考えられる。
しかし、現代日本に於いて靴がない、ということはそれでもう社会の一員として生活できない、という状態である。
『昔(昭和20~30年代)はみんな貧乏だった』 という状況と、現代の貧困、は根本的に違う。格差と貧困をごちゃまぜにしてはいけない、というのが本書の強いメッセージです。現代社会ではその仕組みが貧富の差を広げ(サブプライムローン)、親が貧困なら子も貧困でそこから抜け出せないという重い事実、生活保護は国民一人一人が生活に困窮した時に受け取ることのできる憲法に保障された権利である、など大人の私も知らないこと、知っていてもよいことなのに目を向けてこようとしてこなかったこと、がどんどん挙げられています。
まずは現実を知る、現代社会に実際に貧困が存在するという事実を知る、ということ。何もできないからと目を背けずにまず知ることだけでも、本書から一緒にしてもらえれば、嬉しいです。貧困に陥ってしまった人には、他者との触れ合いが一番の支援となる、そうです。お金だけじゃなく食べ物だけじゃなく、人との触れ合い。色々な意味で自分自身も身につまされる、一冊でした。
評価:(大変分かりやすい構成)
シャボン玉、葉っぱの上の水の玉、虫の卵。たまの形をしているものをじっくり見てみると色々な発見が。自然の中で出会えるたまを写真とリズミカルな文章で紹介した写真絵本。
(星川ひろ子)1950年東京都生まれ。写真家、写真絵本作家。
(星川治雄)1947年東京都生まれ。写真家、写真絵本作家。杉並区で写真館を経営。共著に 『あかちゃんてね』 『しょうたとなっとう』 『ぼくのおにいちゃん』 などの写真絵本多数。
星川夫妻の写真絵本はどれもコンセプトがしっかりしていて科学絵本、写真絵本の見本のようなものが多く、新作をいつも楽しみにしています、今回も大当たりです。たま、をテーマに様々な球体のものが出てきます。シャボン玉から始まり空に浮かぶ大きな玉である月、葉っぱの上の水のたま、まん丸いクヌギのドングリ、ダンゴムシにカタツムリの卵まで。身近に玉ってかなり多いものですね。
カタツムリの卵は白くて小さくてとってもキレイで、次ページには卵から孵ったたくさんのチビカタツムリがウヨウヨしていて私の視点からは非常~に可愛いのですが、このページを喜べない(気持ちわるーい…)子どもと、大喜びする子どもとの反応の差が、また面白いです。
巻末には登場する様々なたまに関する解説もあり1人で読んでも楽しめる構成になっていますが、やっぱりこういう面白い本はおはなし会でみんな一緒に楽しみたいですね。小版の本ですがおはなし会でもずいぶん活躍してくれています。ただ盛り上がりすぎると次のページにいけなくなるので、ご注意。
評価:(写真絵本はオススメ)
ある日突然消えた妻。持ち去られた通帳と保険証、処分された私信。5年も一緒に暮らしていたのに婚姻届すら提出されていなかったという事実。彼女は一体何者だったのか、何のために自分と暮らしていたのか。表題作を含む短編集。
(吉永南央)1964年埼玉県生まれ。群馬県立女子大学文学部卒業。『紅雲町のお草』 でオール讀物推理小説新人賞を受賞。著書に 『紅雲町ものがたり』 『誘う森』 『Fの記憶』。
(収録作品)オリーブ/カナカナの庭で/指/不在/欠けた月の夜に
見事なプロットでした。 『オリーブ』 読了後しばし呆然としてしまいました。これから全ての著作をチェックしなくては、吉永南央。家族とは、愛情とは、という人類の永遠の命題に挑み見事に表現した一冊、表題作 『オリーブ』 は皆様に必読です。
妻のことなど付属品のようにしか思っていなかった夫が、彼女に去られて初めてその存在の大きさを感じ寂しさを感じる。さほど愛情もなく自分の中では大きな存在ではなかったはずの妻だったはずなのに、なぜ寂しさのようなものを感じるのか?その感情を 『愛情』 ということすら気付かない、分からない夫が持て余す、この不思議な消せない想い。目に見えない愛情とは本当にどんなものなのだろう。大人の物語です。
『指』 も秀逸です。芸術を生業とする自分と自分の芸術を理解する居心地の良い年下の愛人。妻のいる彼の身勝手さ、それすらも受入れていたのに自分を裏切る彼。女の執念、というありきたりのテーマの枠に留まらない見事な展開には息を呑みます。嫉妬、未練、という女の想いを描きながらも清々しさを感じる、この展開の見事さと不思議さ。
どんなに辛い想いをしても人は先へ進まねばならないし、進む力がある。前向きな気持ちにさせてくれる、美しい短編集です。
評価:(久々に満点)
杉浦弥代子はかつてアイドルを夢見ていた32歳のOL。ある日渋谷の路上で高校生に間違われアイドルグループ原宿ガールズにスカウトされる。夢が再燃した弥代子は年齢を誤魔化してオーディションを受けるが。暴走する弥代子はアイドルになれるのか。ダ・ヴィンチ連載を単行本化。
(橋口いくよ)1974年鹿児島県生まれ。19歳のアイドルデビューを経て作家に。十代に間違われA*B48のスカウトに声をかけられたことも。主な著書に 『蜜蜂のささやき』 『アロハ萌え』 『だれが産むか』 など。
ダ・ヴィンチ連載時より結構夢中になって読んでました、32歳OLがAK*48、じゃなくてアイドルになったら?という作者の実体験(!)に基づく発想が面白いです。
これが秀作の理由は、弥代子の本気振りにあります。優しい恋人 一郎も、大人の友人達もOLの仕事までも捨てて、弥代子はステージの上にいる 『キラキラした自分』 を選ぶのです。いつ歳がバレるか?とヒヤヒヤしながらも弥代子はセンター(※グループ内の立ち位置のこと)目指して努力を重ねるが、このままではセンターの地位を勝ち取れないことに気付いた彼女がついに出た思い切った行動は…!のラストには衝撃。
アイドルになる条件は、自分がアイドルなのだと思い込むこと(信念)なのかもしれないですね。実にTVドラマ向きの内容です、ドラマ化されたら面白いだろうなぁ。
評価:(5つ満点)
運動オンチでインドア派、山登り経験ゼロのともこがダイエット、リフレッシュ、癒やしを求めて始めた山登り。気づけばココロもきれいになっていく。女子向けイマドキ山登りコミックエッセイ。登山ミニ知識も満載。
(鈴木ともこ)1977年東京都生まれ。出版社に書籍編集者として勤務し作家に。主な著書に 『強気な小心者ちゃん』 『ふつうの会社とパンチパーマ』 など。
『強気な小心者ちゃん』 の漫画家鈴木ともこさんによる山登りコミックエッセイ。正直 『強気な…』 はつまらないマンガ(ごめんなさいごめんなさい…)なのであんまり期待していなかったのですが、これは内容がよくて絵の稚拙さが気にならないという、かなり意外な読後感でした(再びごめんなさい…)。
山登りの効用は、
心がリセットされる
悩んでいたことが大自然の中では小さなことと思えるようになる
『よく寝たー』 と思ったときの50倍のスッキリ!
この50倍のスッキリ、という表現がいいですね、実によく伝わります。なるほど50倍なら行ってみたくなりますね。山登りだけではなくおしゃれトレッキングファッションの提案や温泉、食事(カレー)、ビール、のお楽しみの他にも、山のお土産、山バッチコレクション、女子向けお役立ち山アイテムの提案など、全てに於いて視点が女子のところがまた、読んでて面白いです。
とは言え山登りの装備と準備は万全に…
トレッキングシューズ、レインウェア(ゴアテックス)、ザック
が三種の神器だそうですよ。やっぱりレインウェアはゴアテックスがオススメだそうです。
健康的な趣味をお探しの方に、ぜひオススメです。私も身近な山から日帰り登山に行ってみるかな(言ってみてるだけ、笑)。
評価:(5つ満点)
ホームルーム、裁判員制度、死刑。この3つに共通する最大の注意点はなんでしょう? 『罪と罰』 『『冤罪』 『裁判員制度』 『死刑』 について著者の考えを中高生に向けて語る。
(森達也)1956年広島県生まれ。立教大学卒業。テレビディレクター、映画監督、作家。早稲田大学客員教授、明治大学客員教授。『A2』 で山形国際ドキュメンタリー映画祭審査員特別賞、市民賞を受賞。主な著書に 『下山事件』 『ドキュメンタリーは嘘をつく』 など。
十分大人だというのに相変わらず世の中のことに疎いというか関心が薄いため、前半から中盤はなかなか進まず苦労しました。間に2冊も他の本よんでじゃって、やっぱり私は実用書が読めないなぁ(しかもYA向けなのに)と思っていたところ、4章死刑に入ったらがーっと行けました。本書の言いたいことはこの4章にあるこの一文です。
もしもあなたが死刑はあって当たり前だと思うのなら、本当はこのスイッチを刑務官にばかり押しつけないで、あなたも押すべきなのだ。
この一文を書くために、森氏は中3の公民の内容を身近な例を挙げながら分かりやすく解説してくれたのです…にもかかわらず読めないとか言ってゴメンなさい。
そもそも世界各国で死刑廃止が広がっているにのなぜ日本は死刑存置を続けているのか。君は考えたことがあるか?というのが本書のテーマ。そう考えたことなかった…そこからまず始めることが必要です。そしてオウム(地下鉄サリン事件)以降、マスコミと政府が煽り続ける 『危機管理』 の風潮。世の中は怖いんだよ、危険がいっぱいだよ、だから人を疑って気を付けなきゃいけないよ、という風潮。それにより死刑存置支持が上がっているという現実を、私達大人ももっと真剣に考えなくてはならないのです。
1章(罪と罰)、2章(冤罪)、3章(裁判員制度)、4章(死刑)。この構成も見事です。社会(政治)に疎い私にもよく分かりました。オウム以降の市民の安全に対する感覚の変化が、現代社会を作ってることは間違いなく、社会が危険だという認識は死刑制度を存続させている。しかしそもそも死刑は何のため、誰のためなのか?安易なポピュラリズム(世論に迎合する)にアナタも踊らされていないか?という森氏の強い訴えは、現代社会を担う大人の一人である私達にも、重く響きます。
最後に森氏は 『僕は、この本で君(読者である中高生)に僕の考えを押しつけすぎてはいないだろうか。どうか君たちは自分の頭で考えて欲しい。』 と結んでいます。僕の考えはこうだ、しかし君は僕の考えが正しいかそうでないか、自分で考えるべきなのだ。とまで言ってくれる森氏。それは私達大人にとっても、同じことなのですね。
評価:(5つ満点)