ある日届いた「となり町」との戦争の知らせ。僕は町役場から敵地偵察を任ぜられた。だが音も光も気配も感じられず、戦時下の実感を持てないまま。それでも戦争は着実に進んでいた…。第17回小説すばる新人賞受賞作。第133回直木賞候補作。
久々に会心の設定の本だと感じました。市町村合併が実は戦争の結果行われるものだったら?そして広報の死亡数欄に着目する作者の着眼点が素晴しい。そう、毎回広報が来るたびに市町村の人口は増えたり減ったりしているのですが、それが 『戦争』 による結果も加わったら?と考える。
私達は日々生活している中、『戦争』 とは世界のどこか遠いところで行われているもの、と考えがちですが、それが自分の生活の一部となったらどうでしょう。
その本はそこを踏まえた上であえてシュールに描いています。シュールな怖さ、面白さ。
生真面目に役所的に、『僕』 にとっての 『戦争』 偵察業務は日々続いていきます。自分でもこれが戦争かどうか分からないまま、『僕』 はひたすら任務を忠実にこなしていくのですが、最後まで実際の戦争が見えなかったところが読了後すぐの不満でした。
がっ今考えてみると、これが現代日本の最も恐ろしい部分なのもかもしれません。
自分のすぐそばで戦争が起こっていても気が付かない、気にしないという風潮に、知らず知らずに自分も飲み込まれているのかもしれません。
エンターテイメントとしては十分過ぎるほど、シュールな設定でそれだけで★5です。すばる新人賞は私にはアタリが非常に多いですね(金原ひとみなど)、これからは意識してチェックして行きたいと思います。
※ちなみに作者 三崎氏は男性です。
評価:





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