ポーランドに住んでいたユダヤ人少年のジャック。12歳の時ポーランドがナチスドイツに占領される。その数年後わずか15歳の時にジャックは家族と別れ強制収容所に送られた。劣悪な環境の中で厳しい労働を強いられるジャック。生と死が常に隣り合わせでいつ何時死んでもおかしくない環境の中、ジャックはアーロンという仲間から 『ここで起こることはすべてゲームだと思え』 と言われる。ジャックは 『たった一つのミスが死を意味する』 ゲームを行うことにした、『ナチスより長く生きる』 そのために。
(アンドレア・ウォーレン)アメリカの女性ノンフィクション作家。雑誌編集者、新聞記者などを経て若い人たちに向けて歴史をテーマとしたノンフィクション作品の執筆を行う。
自ら意識を 『これはゲームなんだ』 とそらさなければとても生き抜けなかった、ジャック少年の物語。過酷過ぎる強制収容所の生活を生き抜いた彼の気力は、生きて家族と再会することだった。という事実に本当に泣かされる。わずか15歳で家族と引き離され、労働力としてあちこちの強制収容所を転々とさせられたジャック。行く先々での過酷な労働と生活。戦後70年近くが経過しても決して風化することのない恐ろしいホロコーストの記憶とその事実。
素晴らしいことを行うのが人なら、恐ろしいことを行うのもまた人である。という事実は常に忘れてはならない。
評価:(全てのYAと全ての大人達に)
お兄ちゃんが人を刺すなんて。 『英雄』 に取り憑かれた兄を救うため、友理子は物語の世界へと旅立った。異界で旅をする友理子に従う従者の僧侶と、戦士である 『狼』 。旅の行く先には何があるのか、友理子は兄の魂を救えるのか。ついに 『英雄』 と対峙した時、友理子はおぞましい真実を知る。英雄の書とは一体何なのか。宮部みゆきのファンタジー、 毎日新聞連載に加筆修正。
(宮部みゆき)1960年東京都生まれ。 『我らが隣人の犯罪』 でオール讀物推理小説新人賞、『蒲生邸事件』 で日本SF大賞、 『理由』 で直木賞、 『模倣犯』 で毎日出版文化賞特別賞、司馬遼太郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞、『名もなき毒』 で吉川英治文学賞を受賞。
宮部の新刊。ということで内容も確かめずにまず図書館予約。動きが早かったため今回も栞が使われていない→誰も読んでいない、新着ホヤホヤの本が手元に来たのは嬉しいのですが。読み始めてからシマッタ、と思いました。ファンタジーです。私は宮部のファンタジーはどうも苦手なのです。しかしせっかくの上下巻なので読みました。
久々の少女主人公、これはクロスファイヤ以来では?異世界へ旅立つ点はブレイブ・ストーリー、ICO霧の城と同じですが、今回のキーは 『物語』 。物語、本として人から人へ語られるものとしての物語、ストーリーに含まれる正義と悪について。それは表裏一体のものだというのだ。
主人公は小学生の友理子、異世界ではお決まり通りカタカナ名の 『ユーリ』 となるのだが、ユーリは現実社会で人を刺すという 『罪』 を負った兄の魂を救いだすために旅に出る。旅の途中でユーリはこの世界の成り立ちや、なぜ兄が罪を犯すに至ったかを様々な人々との出会いから徐々に知っていくのだが…。
クライム・ノベルとして本作を見た場合、このあり方はどうだろう。
兄が罪を犯したのは 『英雄の書』 と呼ばれる物語にとり付かれたため。 『英雄の書』 は正義と悪の二面を持つ物語であり、兄はその物語に付け込まれたのだと言う。
それならば、兄の犯した罪は全て英雄の書に原因があり、兄は本来は無罪なのだろうか?イヤ付け込まれた以上兄にも罪があるのだろうか? 『正義をなすことは一方では罪である』 というテーマとも読み取れる本作は、私のような大人(一応)読めば問題ないがYAの世代に訴えかける内容としてはやや刺激的過ぎやしないか?そんなことは懸念する必要もないのだろうか?やはり、宮部がファンタジーという形式を通じて何を最も訴えたいと願っているのか、イマイチ私には掴めない。
ただ物事には必ず表裏があり、本当に正しいこと、本当に間違ったことはない、ということを言いたいのかもしれない。それでもなお、ユーリの兄 大樹が現実社会で起こした罪は間違ったものである。その誤りに肩を持つということか?と読了直後は思っていました。
が、 『加害者の家族』 という立場のユーリのことを思えば、これまでの宮部のファンタジーとは異なりラストのエピローグでユーリの未来が明るく開けていることに、非常に安堵を覚えました。ブレイブ・ストーリーのラストがどうしてもイヤだったのでコレは相当ホッとしてしまいました。いずれにせよ立場が非常に微妙な設定のストーリーで、エンタメとしてはアリでも新聞連載としては、どうなのでしょう。
評価:(でもラストは泣いた…
)
女30代でキャリアガール。既婚でも独身でも、子供がいてもいなくても、立場は違えど働くことは同じこと。強いけどキュート、それがガール。そんな彼女たちの5つの物語。
(奥田英朗)1959年岐阜県生まれ。プランナー、コピーライター、構成作家を経て作家に。『邪魔』 で大藪春彦賞、『空中ブランコ』 で第131回直木賞を受賞。主な著書に 『イン・ザ・プール』 『町長選挙』 など。
(収録作品)ヒロくん/マンション/ガール/ワーキング・マザー/ひと回り
某オンライン書店の書評に 【奥田英朗、女性説】 というのがあり、この見事な書評に唸ってしまいました。まさにその通り。この本を未読の方に表紙を隠し、林真理子の本だと言って読ませたら絶対信じるはず。と思うほど、こういう題材がお得意な林真理子ら女性作家の作品のようでした。
30代女性会社員がいずれも主人公。華やかな部署の主人公もいればそうでない人も。独身でマンション購入を検討している人もいれば、シングルマザーも。立場はそれぞれ違えど、女は誰しも 『生涯、一(いち)ガールでありたい』 と思っている。
という奥田氏の主張に、私も一票です。
評価:(5つ満点)
廃墟が都市機能を担う重要なものと認められた社会。廃墟建築士の関川はかつての弟子が強引な手法で次々と高級廃墟を建て業界の寵児となる中、地道に廃墟を作り続けていた。そんな中廃墟建築業界全体を揺るがす事件が発覚する。表題作ほか 『建物』 で起こる奇妙な事件を題材に、現実と非現実が同居する三崎ワールド短編集。
(三崎亜記)1970年福岡県生まれ。熊本大学文学部史学科卒業。『となり町戦争』で小説すばる新人賞受賞、第133回直木賞候補作。著書に 『バスジャック』 『失われた町』『鼓笛隊の襲来』。
(収録作品)七階闘争/廃墟建築士/図書館/蔵守
『七階闘争』 でまた鼓笛隊の襲来の二の舞か…と残念に思ったところで続く 『廃墟建築士』 で盛り返してきた。コレはいいです。現代社会における 『廃墟』 のコンセプトがしっかり伝わってきます。
『図書館』 は短編 『動物園』 (バスジャック収録) の続編。図書館の本来の 『野生の』 姿、という抽象的なとらえ方、表現が面白い。確かに 『知識』 とは生きているものなのかもしれない。
『蔵守』 も奇抜な話ではあるが、愚直なまでに蔵を守り抜こうとする蔵守と彼に従う見習いの、未来へつながるラストが明るい。
前作 『鼓笛隊の襲来』 でかなり外したとガッカリしていたのだが本作を見る限りまだまだ大丈夫。 『バスジャック』 の二階扉、動物園、『鼓笛隊の襲来』 の覆面など、ちょっぴり連作っぽくしているのもファンサービスとしていいです。
評価:(5つ満点)
高2の夏休み前、由紀と敦子は転入生から衝撃的な話を聞く。彼女はかつて親友の自殺を目にしたと言うのだ。『人が死ぬ瞬間を見たい』 と思った彼女らはそれぞれ 『死に近そうな場所』 でボランティア活動を始めるが。好奇心から始まった少女らの夏の結末は?若さゆえの残酷さ、純粋さについて問う。
(湊かなえ)1973年広島県生まれ。武庫川女子大学家政学部卒業。『告白』 で小説推理新人賞を受賞しデビュー。
『告白』 で衝撃的なデビューを飾った湊かなえの第2作。これを読んだ人絶対かなりの数いるはず。今回も趣向は面白い、ところどころ複雑な伏線が張ってあり破綻もない。だが、よくできたドラマか映画のようだった。エンタメとしては面白いが単に面白さだけを求めて行くつもりならもう読まなくなるかも。
女子高生という世代の無邪気さと言えば響きはいいが、この話を読む限りは空恐ろしく感じる。女子高生ってここまで世界の中心が自分、なんだろうか?でもどの世界でもいわゆる 『コドモ』 とはそういうものなのかもしれない。自分しか見えてないからコドモなんだし…って私もそうなのか?…とここで反省(笑)。
技巧はものすごいがこの本では前作ほど訴えてくるものが分からず、イマイチな印象だった。ハヤカワノベルスというカラーのせいかどうか?
評価:(5つ満点)