今年もイヴが近づき恒例のサンタクロースの会議が開かる。引退したサンタに代わり新しくメンバーに加わる女性サンタを認めるかどうかで会は大騒ぎになる。性別、容姿についてサンタクロースという存在を通じて問うファンタジー。東野圭吾 『片想い』 に登場する戯曲 『サンタのおばさん』 を絵本として創作。
(東野圭吾)1958年大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒業。『放課後』 で江戸川乱歩賞、『秘密』 で日本推理作家協会賞、『容疑者Xの献身』で第134回直木賞を受賞。主な著書に 『幻夜』 『白夜行』 『片思い』 『トキオ』 『ゲームの名は誘拐』 など。
(杉田比呂美)1959年東京都生まれ。阿佐ヶ谷美術専門学校卒業。 グラフィックデザイナーを経てフリーのイラストレーター、絵本作家、本の装幀なども手がける。主な著書に 『五感のピクニック』 『風たんてい日記』 『ぼく、わん。』 など。
杉田比呂美の挿絵が可愛い一冊。惜しむらくはサンタが欧米とアフリカ、ヨーロッパ地域しかいないこと…日本以外のアジア、ロシア、南米はどうするのだ?個人的にはロシアサンタ、トルコサンタ、中国サンタ、ブラジルサンタなどが欲しいですね。
大人の方への贈り物に。
評価:(5つ満点)
手仕事を営む職人たちの心に灯ったのは仕事に対する念であった。それはやがて殺意に増殖し冷たい惨劇を招く。線香、着物の染色、杜氏、宝飾、能面、提灯など、それぞれの職人の静謐な世界を舞台に描いた6作品。
(乃南アサ)のなみあさ。1960年東京都生まれ。早稲田大学中退。広告代理店勤務等を経て作家活動に入る。『幸福な朝食』 で日本推理サスペンス大賞優秀作、『凍える牙』 で直木賞を受賞。主な著書に 『涙』 『鍵』 『しゃぼん玉』 など。
(収録作品)青い手/鈍色の春/氷雨心中/こころとかして/泥眼/おし津提灯
『青い手』 がベスト。家業の線香作りのことでからかわれ、父親が初めから自分にはいないことに引け目を感じている少年が主人公。やがて彼自身も母と祖父母を手伝い家業を継ぐ自覚に目覚め、秘伝の香の 『材料』 を手に入れることを決心する。
家業を継ぎ主人となった少年は幼馴染みと結婚するが、妻である彼女から告げられた、少年の日の思い出で、彼は初めて後悔することになるのだろうか。深い余韻を残す物語。
その次は 『泥眼』 かな。梨木香歩 『からくりからくさ』 にも能面が出てきたな。
いずれも伝統的な手工芸を通じ、それに込められた人の想い、怨念を描いた作品集。乃南氏得意の 『余韻の残るラスト』 を目一杯感じられる作品集。
評価:(5つ満点)
中国人を狙った惨殺事件が相次いで都内で発生する。手がかりは被害者のバラバラ死体のわきの下に残された 『五岳聖山』 の刺青だけ。捜査は混迷し新宿署の刑事 佐江は、捜査補助員として毛と名乗る謎の中国人とコンビを組まされる。公安の思惑が働く中、外務省のエリート職員 由紀も加わり3人は事件の真相に迫ろうとする。やがて中国人連続殺人事件を中国政府による反政府主義者の処刑と考えた公安は、事件の解決よりも中国国家安全部の情報を得ることを最優先とし佐江たちを翻弄し、事件は日中黒社会をも巻き込んだ大抗争へと発展してゆく。日刊ゲンダイ連載を単行本化。
(大沢在昌)1956年名古屋市生まれ。慶応義塾大学法学部中退。『感傷の街角』 で小説推理新人賞を受賞しデビュー。『深夜曲馬団』 で日本冒険小説協会最優秀短編賞、 『新宿鮫』 で日本推理作家協会賞長篇賞、吉川英治文学新人賞、「新宿鮫 無間人形」で第110回直木賞、 『心では重すぎる』 で日本冒険小説協会大賞、『パンドラ・アイランド』 で柴田錬三郎賞を受賞。
『砂の狩人』 から数年。あの時ただ一人生き残った新宿組対の刑事、佐江に勅命が下る。
腹は出てるし熟年離婚されるし、全く冴えない風貌の佐江が今回のヒーロー。
今回のヒーローも決してカッコよくはないが、信念を持ちそれを決して曲げることなくそれに基づき行動する。情報を揃えた上で他人に惑わされることなく、自らの判断で行動しその行動に責任を持つヒーロー。その行動には通りすぎなほど筋が通っている!
今回のヒーロー佐江はヒロイン(っていうかマドンナ?)といい仲にはなりませんが、トリック、裏切り、それぞれの思惑と真意の交錯が見事な構成で、今回も大変満足でした。
評価:(5つ満点)
最愛の妹が殺害された。愛知県警勤務の和泉康正はその死に疑問を抱く。所轄署は自殺と断定したが、一人行った現場検証の結果、妹が自殺ではない証拠を見つけ出す。妹の親友と妹のかつての恋人という2人の容疑者を割り出した和泉は真犯人に迫ろうとするが…。最後まで読者には犯人が明かされない、謎解きを盛り込んだ異色作。文庫本には謎解き解説の袋とじ付き…そこまでする?
(東野圭吾)1958年大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒業。『放課後』 で江戸川乱歩賞、『秘密』 で日本推理作家協会賞、『容疑者Xの献身』で第134回直木賞を受賞。主な著書に 『幻夜』 『白夜行』 『片思い』 『トキオ』 『ゲームの名は誘拐』 など。
謎解きゲームが読者に課せられラストまで続き、しかも解答が記されていない!という異色のミステリー。96年ノベルズ版発刊時は出版社に問合せが殺到したって…これは笑えるじゃないですか。ということで読んでみました。
容疑者はたったの2人、ラスト主人公は 『犯人』 を確信したというのに…やっぱり私も判らなかった。出版社に電話するか?いやいや待て待て。
殺されたのは妹、容疑者はその妹の元恋人である佃と、妹の親友であった弓場。なーんとなくこっちか?と思った方で合ってはいたものの、トリックの見破り方が全然違いました…やっぱり判ってなかった。細かーい点まで見なくちゃならなくて、まるで名探偵コナンのようでした。コナン君レベルのすげえ観察力が求められます。
正直かなり疲れました。たまにならこういうゲーム形式の小説も面白いかもしれないけど、読者としてはしっくり来ないし私には向かないです。答えはインターネットで探して個人の方のブログをいくつか拝見しました、いい時代になったもんだ。
96年頃が舞台の、携帯を持つ人も少なくナンバーディスプレイもない、という時代背景もまた重要なポイント。時代が変われば犯罪も変わりますね。
評価:(5つ満点)
沖縄の離島で出会った若い2人。短い結婚生活で生まれた一人娘の凉子にとって、島は世界のすべてだった。涼子は成長し幼なじみの漁師 一也と愛し合うようになるが、ある日一也が事故で海から帰らぬ人となる。世界のすべてであった一也を突然奪われた凉子は心を病み、仕事で島を訪れる見知らぬ男たちに夜な夜な抱かれるようになる。美しい沖縄の海を背景に、絶望からの心の再生を描いた物語。
(宮木あや子)1976年神奈川県生まれ。 『花宵道中』 で 『女による女のためのR-18文学賞』 大賞と読者賞を同時受賞しデビュー。 著書に 『白蝶花』 『雨の塔』。
(収録作品)紺碧/三原色/群青
宮木あや子は泣ける。が後味のよい泣きなので毎回スッキリします。
こういう展開のストーリーは王道と言えば王道ですが、今こういう王道を書ける人が少ないような気がします。
私としては由紀子が主人公の 『紺碧』 が一番好きかな。この本は映画のためのノベライズということでところどころ映像表現を意識している所が多いというか、映像ならばもっと素晴らしいだろうと感じる所がありました。
生まれ育った島という狭い世界が涼子にとっては全世界であったのに、そこから出て行こうとするラストが爽やかだと思うのです。もちろん宮木お得意のエロスもところどころ散りばめられてはいるものの、どの宮木作品にも言えることですが筋が通っている小説のためエロスの部分が目立ってしまうことが決してないのが大きな特徴です。
そこがやはり今回も、脱帽です。
評価:(5つ満点)